調査データファイル 第55 回 若者の「キャリアアップ病」

フリーター・ニート問題に代表されるように、一生懸命働かない若者が増加している。ところが、やりがいと仕事を調べると、実態の伴わない「キャリアアップ病」に取り憑(つ)かれている様子も見えてくる。「やりがい」に焦点を当てたとき、若手社員の仕事意識はどのようになっているのだろうか。
1. 無気力・転職志向の高まり

日本中を不安に陥れている耐震強度偽装問題も、その発生原因は、「専門家である建築士が違法行為などするはずがない」といった性善説を前提としたチェク体制が災いしたようである。この問題に限らず、戦後築いてきた多くの社会システムは、性善説を前提としている。価値観が多様化した現在、性善説を前提とした社会システムは、残念ながら急速に機能しにくくなってきている。
フリーター・ニート問題に代表される若者の職業問題も同じであり、これまで学校を卒業する若者は青雲の志を抱いており、仕事に就かずに怠けるといったことは、想定外の事態である。
ところが、バブル経済崩壊後の不況過程で顕在化した若者のフリーター・ニート化は、伝統的な若者像を一挙に崩壊させている。
つまり、長時間労働や単身赴任も厭わず猛烈に働くといった高度成長期のサラリーマン・イメージからはかけ離れた、会社への忠誠心が低く、一生懸命働かない若者が増加している。
野村総合研究所が最近行った調査結果も、若者の仕事に対する無気力感が強まっていることを確認している。2005 年10月にインターネット上で実施した「仕事に対するモチベーションに関する調査」(上場企業の20~30代の正社員を対象、1,000 サンプル)によると、「現在の仕事に対して無気力感を感じることがあるか」という問に対して、「よく無気力感を感じる」16.1 %、「ときどき無気力感を感じる」58.9 %という回答となっており、合計すると7割以上の75.0%の人が、仕事に対して無気力感を抱いている(図表1)。
また、「3年前と比較して、職業人として成長した実感があるか」という問に対しては、「あまり成長した実感がない」が42.5 %に達しているのに対して、「成長した実感がある」という回答は38.7 %にとどまっている。
そして、成長に対する停滞感は、特に30代で高くなっている(男性49.0%、女性47.5%)。
さらに、「現在の会社にどのくらいの間勤めたいか」という問に対しては、「定年まで勤めたい」は17.9%にすぎず、「あと10 年以上は勤めたい」(9.9 %)と合わせても、長期定着志向は3割にも達していない。
逆に、「機会があればすぐにでも転職や独立をしたい」(18.7%)、「3年以内に転職や独立をしたい」(13.0 %)、「あと5年ぐらい勤めたい」(12.3 %)を合計した潜在的な転職志願者は、44.0%と半数近くに達している。