eラーニング導入に当たっての「4つの切り口」 ①ID ID(インストラクショナル・デザイン)の魅力とその効果
eラーニングを担当する人の「悩み」は多い。学習者にとっても企業にとっても良い教育や学びにしたい。IT を活用していくことになるが、むやみに使うだけでは効果は得られない。多種多様な情報をネットワークなどで流す以上、著作権を侵害しないよう、されないようにしなくてはならない。そしてこういったさまざまなことに留意しつつ実際にモノ(コンテンツ)をつくっていかなければならない…。これら多種多様な「悩み」は同時にeラーニング活用の「ヒント」でもある。ここでは、eラーニングについて、ID(インストラクショナル・デザイン)、IT(情報通信技術)、IP(知的財産権)、IM(教育ビジネスや開発プロジェクトのマネジメント)の4つの切り口から、各分野の最前線で活躍する実務家や研究者に語ってもらうことで、活用に向けてのポイントを「再確認」していく。「悩み」を「ヒント」に転換する糸口をつかんでいただければ幸いである。
インストラクショナル・デザイン(以下、ID)を理解・再確認していただくために、そもそもIDとはどのようなものかを解説。
IDって何?
ここ数年、「インストラクショナル・デザイン」という言葉が、教育・研修の世界でよく聞かれるようになり、特にe ラーニングを考えるときにそれは必須のものとして扱われるようになってきた。
ID は文字通り、「インストラクション」を「デザイン」するためのものであり、その定義にはさまざまなものがあるが※ 1、ここでは「教育の効果・効率・魅力を高めるための方法論」と整理しておく。
なぜその教育が必要なのか、その教育で何を学習者に得てもらいたいのか、それが実践できたかどうかをどう確認するのか、そして、どのように学習者に学んでもらうのかを、より具体化し、期待した成果を期待通りに得るために用いる方法論がIDであるともいえる。
本稿では、読者諸氏にIDを理解・再確認していただくために、そもそもIDとはどのようなものか、IDは実際にどのように進めたらよいか、そしてID研究から得られたe ラーニング開発に役立つ知見をご紹介していく。
IDが対象とする領域
IDが対象とする分野はインストラクション、すなわち「教育」、人に対する教えである。
IDは、教育において、ある一定の効果が常に保たれるように、「どのような人」を「何ができるように」したいのかを明確にさせ、教授法や学習成果の確認をする方法を体系化したものである。
逆に言うと、学習のうち「何ができるように」したいのかを明確にできないものはIDの対象外ともいえる。
また、昨今、「学ぶ(ラーニング)」という言葉が見直されてきたことからも明らかなように、人材育成の活動の中心を、従来の「教える側(講師・先輩)から学習者に教える」ことから「学習者が主体的に学ぶ」こととする企業が増えている。その流れを汲んで、IDも「より学習者が自ら学ぼうという気持ちを高め、自ら学ぶ力をつけるような設計をすることを意識する」ために活用されるようになってきており、その方面での研究も進んでいる。
IDとeラーニング
IDで高めようとする「効果・効率・魅力」は、いずれもe ラーニングのみならず、従来から行っていた教育活動(集合研修やOJT など)においても不可欠な要素であることはいうまでもない。実際、ID は1950 年代、アメリカ軍の新兵教育を効果的・効率的にするための研究からはじまった、とされている。
にもかかわらず、IDがeラーニングと併せて語られることが多い理由を3つあげたい。
まず、集合研修などのフェイス・ツー・フェイスのものと異なり、学習者に合わせた「アドリブ」を効かせることが難しい(ほぼ不可能に近い)非同期型のe ラーニングでは、事前に学習者をよく分析し、学習者に合わせた設計をしておかなければならず、そのためにIDが必要とされる。
2 つ目は、eラーニング教材の開発には多くの関係者・専門家・外注先などとの共同作業が必要となる点である。関係者間で共同作業を進めて行く際に必要な共通言語、分業・プロセスの枠組みとして、IDは有益である。
3 つ目は、eラーニングが教育において比較的新しい手法・メディアであるため、使う側がその長所や短所をつかもうと努力しようとすることが多い点である。そういった努力をする際に教育の諸理論を体系化し俯瞰(ふかん)するものとして、IDは大変な助けになるのである。
「システム的」なものを「システム的」に開発する
IDでは、教材やコース、カリキュラムを「システム的」なものとして捉えている。この「システム的」には2 つの意味がある。
第一に開発や改善のプロセスが一連の手順・流れに沿っているという意味でシステム的(システマティック)※ 2と捉えている。ID ではシステマティックなアプローチ、すなわち一連の手順・流れに沿って教材やコース、カリキュラムをつくり上げる。手順については、この後、代表的なプロセスモデルである「ADDIE モデル」をご紹介しよう。
第二には、効果的・効率的に学ぶことができる教材・コース・カリキュラムは「それぞれに含まれる要素(例えば、カリキュラムであればそれぞれの研修や科目)が相互に関連しあった全体としてのシステム」という意味でシステム的(システミック)※ 2 だと捉えている。この点は、それぞれのe ラーニングや研修のなかだけでなく、企業における教育体系や各種のカリキュラムにおいても同様で、コース間・研修間の関係性を示すことができなければ、それは「体系」たり得ない、単なる「列挙」あるいは「品揃え」でしかないはずである。
つまり「システム的」(システマティック)に「システム的」(システミックな)なものをつくっていくのがIDだともいえる。