連載 NEC が世界4 極で展開するグローバル人材育成策― GMLI 第3 回 最終回 グローバル人材育成のための 『HR マネジメントガイド』
連載最終の今回は、グローバル人材育成リンケージ・イニシアティブ(GMLI)の成果物の一つである『HR マネジメントガイド』について紹介したい。このガイドは、海外赴任者等、グローバルビジネスに携わる人が、現地社員と円滑に協働を進めていくことを支援するとともに、社内幹部に異文化環境下で的確にリーダーシップを発揮できる人材育成の重要性をビビッドに認識してもらうことを目的に、NEC が製作を意図しているGMLI のいわば「副産物」である。すなわち、海外赴任者には赴任地での人材マネジメントに、国際プロジェクトに携わるビジネスパーソンには、プロジェクトメンバー間のコラボレーション創出のためのリーダーシップ発揮に、それぞれ役立ててもらうことを目的とした、実践的な異文化マネジメントのノウハウ集である。
HRマネジメントガイドの制作意図
NECの海外赴任者向け研修体系見直しの出発点となった、海外勤務者のコミュニケーション力、マネジメント力に関する問題は必ずしも新しいものではなく、従来から指摘されてきた事項であった。従来、こうした現地でのコミュニケーションやマネジメントに関する失敗事例や成功のノウハウは業務引き継ぎのなかで継承されるケースはあるものの、会社全体として蓄積、共有、伝承の仕組みはなく、その結果、同じ失敗を繰り返しているという状況にあった。
今回の「ガイド」作成は、こうした海外の現場での貴重な経験を蓄積・共有し、同じ失敗を繰り返さないための仕組みやツールが導入できないかという課題意識に端を発する。
この課題認識に対する具体的な解決方法として筆者らが考えたのが、GMLI のプロセスから得られた現場での諸課題に関する情報、現地従業員の赴任者への期待などを集約するとともに、異文化環境下における人材マネジメントとリーダーシップの要点を凝縮し、現地(ASEAN地域)でのリーダーシップ行動の基本として「ガイド」という形にまとめるという方法であった。
すなわち、毎年の赴任前、赴任後の研修実施等、GMLI の実践の過程で得られる最新の情報を反映し、その内容を進化させていくことにより、現場でのノウハウがガイドに集約・蓄積されていく仕組みである。
この「ガイド」を、赴任者を含むASEAN 地域での事業に携わる関係者全員で共有することにより、現地で事業を遂行するうえでの異文化マネジメント力の重要性の認識を高めるとともに、基礎知識の不足からくる現地人とのコミュニケーション、マネジメント上の問題をできる限り低減し、今後の海外事業の成長に寄与していきたいというのが、NEC が今回ガイド作成・共有に取り組む意図である。
リーダーにはリーダーシップの軸が必要
アジア圏の現地管理者が日本人赴任者に求める期待行動は、「対話型リーダーシップ・プロセス(DLP)」であることは、これまでさまざまな機会を通じて指摘してきた通りである。先日このテーマについてマレーシア日本人商工会議所で河谷が講演した際、メーカー系の現地社長経験者から図表1のような「裏版DLP」を披露していただいた。現地経営者として観察した日本人赴任者の問題ある行動ぶりを指摘したものである。現地経験のある方なら誰でも苦笑しながらも、深く納得させられるに違いないコメントだった。
氏の指摘から、日本人リーダーと現地従業員のパワーバランスについて図表2のようなイメージが浮かんでくる。
左の図ではバランスが、リーダー(上司)がスタッフにしてほしいこと(ニーズ)のほうに大きく傾いている。別の見方では、部下は自分ではやる気がないのだから管理者のアメとムチが必要だとするいわゆるX理論が勝っている状態を表している。
この状態にある上司は、自分のニーズを押し出す以外に部下を動かす術を持ち合わせておらず、リーダーとしての準拠軸(図表2の三角形部分)を欠いているといえるだろう。この不均衡状態を、上司ニーズをベースにしながらも、何とかスタッフニーズを取り込んでできるだけ均衡させることはできないだろうか。