連載 Talent Management 優秀な人材が離れない!~人を育てる魅力ある企業へ~ 第2 回 タレントマネジメントの実現その1 スキルマネジメント
企業の持つマンパワー(人材)を最大化し、最適配置するためには、「人を管理するのではなく、人が持つ能力(タレント)を管理する」というタレントマネジメントの考え方が非常に重要となる。
この実現には、①全従業員が同じ方向を向いて仕事をする、②優秀な人材が離れない評価制度、③モチベーションの底上げのための教育、④適切な人材を適切に配置する組織マネジメント、の4 本の柱を組み合わせた人事戦略が必要となるが、今回は一つ目の柱である、全従業員が同じ方向を向いて仕事をするための施策、「スキルマネジメント」について解説したい。
「三本の矢」が基本
「三本の矢」という話をご存知の方は多いだろう。1人ひとりがばらばらに動くのではなく、力を結集することで、大きな力を発揮できることを表す例え話である。組織も全く同じことが言えて、グループの全員が同じ方向を向いている、ひいては企業全体として同じ目標に向かって努力している企業とそうでないのとでは人のパフォーマンスは全く異なる。これはどなたも理解されていることだと思うが、ではどのようにして従業員の気持ちを一つに束ねていくのか。
「それは現場のマネジメントに任せている」というご意見を多く伺うが、方法論をきちんと提示してあげないと、現場もどうすればよいかわからない。ある程度人事制度としてコントロールしていく必要がある。
そこで、人事部門の具体策としてよく私の顧客でもお聞きするのが、「全社の目標を周知させてそこから部門、個人の目標にブレークダウンすることで、同じ目標を追いかける」というものだ。これは確かに大切な考え方である。しかし、これだけでは企業の目標に直接関係のない業務が目標からこぼれていってしまい、業務へのモチベーションが全体に下がってしまう。これは目標管理という制度のよくある失敗例である。
業種にもよるが、営業など企業目標に沿った数値目標を設定しやすい職種はよいが、人事部や経理部のようなバックエンドの職種は、業務の半分以上が、成果が明確になりにくく数値目標を立てづらい「すき間業務」といえるものである。しかしこういうすき間業務をどれくらい積極的に取り組む文化になっているかが、実は企業の成長力の生命線なのである。
もちろん、大きな意味で言えば、すべての業務は企業目標に準じているべきであり、数値目標をある程度きちんと設定することは非常に重要であるが、これに加えて、「仕事のやり方」を評価することが必要である。
この「仕事のやり方」を評価することを、「スキル評価」、あるいは「コンピテンシー評価」といった能力として管理していく。
ただ、この2 本の評価軸はあくまで単年の評価でしかない。従業員に対して長期的な観点での方向性と将来性を提供するための仕組み、これが「キャリアパス」である。キャリアパスによって従業員は、自分がこの会社のなかで何をどうすれば、どのようになっていくのか、そして何を成し遂げていけるのか、という自分の将来像が具体的に描けるようになる。
1.全社の目標を共有する、2.仕事のやり方を評価する、3.キャリアパスを提示する。これら3 点が、人の気持ちを3 本の矢のように束ねるための「人事施策の3本の矢」といえるだろう。