WAVE 日本アスペン研究所 古典と対話し、人間の充実、心の充実、思索の充実をはかる 日本アスペン・エグゼクティブ・セミナ-傍聴記

さる2月10 日から15 日にかけて日本アスペン研究所が主催する「エグゼクティブ・セミナー」を取材した。今回で24 回を迎え、すっかり日本に定着した観のある、“ハイレベルセミナー”である。日程は土日を挟み5泊6日で原則は夫婦同伴。費用は65 万円(同伴者なしの場合)となっている。モデレーター、リソースパーソンに一流の学者を配し、参加者も絞って(20 名前後)密度の濃い研修をモットーとしている。しかも参加者の多くは企業でも中枢に位置する人材ばかり。言うならばエリート養成のためのセミナーでもある。1999 年には代表になる前の民主党の岡田克也氏が参加し、いたく感動をして帰っていったという話もある。これまで概要については紹介されているが、その内容にまで踏み込んだ紹介記事はない。なぜいまアスペンのエグゼクティブ・セミナーかを含め、アスペンセミナー傍聴記をお伝えする。
小林陽太郎氏の夢
日本アスペン研究所を語る場合、富士ゼロックス取締役会長(日本アスペン研究所会長)の小林陽太郎氏を抜きにしては語れない。日本アスペン研究所は彼の夢の産物であったからだ。
アスペン研究所はもともとアメリカに生まれたもので、1950年、前年のゲーテ生誕200 年祭を記念し、次世代リーダーの育成を目指してアメリカ・コロラド州アスペンで始まったのがスタートである。
小林陽太郎氏は77 年、初めてそのアスペンセミナーに参加した。そこで目からウロコが落ちるような大きな啓発を受け、以来アスペンセミナーの熱烈な信奉者になっていく。ただその前にゼロックス幹部とのある議論がある。
それは彼が富士ゼロックスのまだ企画担当者だった頃で、あるときゼロックス本社の元会長で富士ゼロックスの役員をしていたウィルソン氏と話したことがある。
「アメリカの企業は短期的な利益を志向している。これでは日本などに負けてしまうのではないですか」
「短期利益志向との批判は甘んじて受ける。アメリカは確かにそういう傾向が強い。だけどそれがアメリカのすべてではない」といって、小林氏に教えたのがアスペン人文科学研究所(当時)の存在だった。
「一度ここを覗いてほしい。そのうえで考え方が変わらなかったらもう一度議論をしようではないか」と。
小林氏がアスペンセミナーに参加したのは、それから8、9年ほど経た77年のことだったが、旧・新約聖書からアリストテレス、プラトン、毛沢東、田中耕太郎の『法と論理』など古今東西の古典をテキストに使った、一言でいえば哲学や宗教、倫理などを学ぶセミナーだった。短期的視点などといった自分が恥ずかしくなるような、文化度の高いセミナーだった。アメリカの企業人はそれら古典を教材にして先を見通す判断力、健全な良識を磨こうとしていた。
当時、日本の企業はといえば強さの一方で、エコノミックアニマルと揶揄され世界の顰蹙(ひんしゅく)を買っていた時代。小林氏は「長期的視点といっても日本の場合、経済や企業に絡んでのこと。社会や人間についても長期的なものの見方が必要。日本にもアスペンのような場があるべきだ」として、その設立に情熱を燃やし、ついに98 年4月、資生堂をはじめオリックス、キッコーマン、東芝、日本アイ・ビー・エムなど多くの企業の支援を得て、日本アスペン研究所の設立に漕ぎ着けるわけである。
設立以来、企業の役員・幹部社員、官公庁の幹部、NPO・NGO関係者、学者・研究者などを対象とした「エグゼクティブ・セミナー」が、同研究所のメインセミナーであることに変わりはないが、最近はこれに加え、官僚を対象とした「人事院・日本アスペン・セミナー」、石川県の県幹部や地元企業幹部を対象とした「石川・日本アスペン・セミナー」、主に企業のマネジャー・クラスを対象とした「ヤング・エグゼクティブ・セミナー」なども行われるようになっている。確実にアスペンセミナーの輪が広がりつつあることを示している。