連載 調査データファイル 第58 回 仕事改革

ブロードバンドとIT の普及によって、インフラ面では在宅勤務というワークスタイルの障害も急速に縮小してきた。問題はそうした環境を利用して、人が最適のパフォーマンスを発揮できるかである。これらのインフラが十分に許容できるものなら、在宅勤務は仕事そのものだけでなく、仕事と共存できるライフスタイルの選択肢を増やすことができる。
1. モバイルワークの体験
春休みの家族サービスで温泉保養地に行ったが、仕事が仕上がらずにパソコン、資料などを持参しての休暇となってしまった。出発時間を遅らせたうえにぎりぎりまで仕事をしていたため、あわただしく車で出発する羽目になった。何とか夕食の時間には間に合ったが、およそリゾート気分のない休暇初日であった。家族には、いつもながら不評であった。
その日は前夜から徹夜で仕事をしていたため、温泉に入ってビールなどを飲むと猛烈な睡魔に襲われ、明け方目が覚めるまで意識不明といった状態であった。夜明けとともに露天風呂に飛び込むと、4月というのに雪がちらついていて、辺り一面銀世界である。寒気で頭は冴え冴えとするし、熱めの温泉で体は目覚めるし、仕事をするにはベストの状態になり、部屋に戻って早速仕事である。
眼下の雪景色をみながら仕事をするのは、いつもの職場で仕事をするのとは雲泥の差であり、何とも気分爽快である。通常の倍の能率で仕事がはかどり、仕事時間は3時間を過ぎていた。そこで家族と一緒に、遅めの朝食をとることになった。
朝食を済ませて部屋に戻ると、今度はインターネットで仕事の督促を確認すると、担当者の焦ったメッセージが画面に浮き上がってくる。こちらまで焦った気分になるから不思議である。昼食までの3時間、集中して仕事をした。その甲斐あって、完成まで後一歩というところまでこぎ着けることができた。
昼食の後周辺の森を散策し、清掃が終わった頃を見計らって部屋に戻り、夕食までの3時間、再び仕事に集中した。その結果、何とか原稿を書き上げることができた。早速、インターネットで原稿を送ると、何とも言えない達成感に浸ることができた。
仕事時間は合計で9時間といったところである。一仕事終えた後の温泉と夕食は、まさにリゾート気分でリラックスすることができた。
ところで、徹夜までして書いた原稿の分量と、リゾートホテルで書いたものを比較すると、何と後者の方が多いのである。保養地へ出発するまでの労働時間は、職場で7時間、家で10時間といったところであり、合計で17時間となる。これに対して、リゾートホテルでは、仕事時間が9時間である。仕事の生産性は、明らかにリゾートホテルのほうが、約2倍も高いという結果となった。
この経験は、いろいろなことを示唆している。まず、企画書の作成や原稿を書くと言った知的労働は、いろいろなことで仕事を中断される職場よりも、在宅やホテルなどで集中して行うほうがはるかに生産性が高く、仕事の成果も良いものになる可能性が高い。
しかも、インターネットとパソコン、携帯電話があれば、仕事場はどこでも構わないといった社会環境が、急速に整いつつある。大量の資料を持ち込み、紙に印刷してFAX で送るといった一昔前の仕事環境とは、雲泥の差である。