WAVE 日本アイ・ビー・エム 「雪中行軍」のような野外活動を通じて 自己のコンピテンシーについて考える
日本アイ・ビー・エムは今年の新入社員研修から野外活動を取り入れた。入社式と合わせ2泊3日の日程で、約300 人の新人が苗場のホテルに泊まり込んで行うもの。7~8人のグループに分かれ、与えられたミッションに従って野外活動に出向き、成果を競い合う体験学習である。そのプロセスで役割分担やチームワークといった仕事の基本を学び、社会人としての自覚を持ち、今後のアクションへの動機づけをすることを目的としている。
野外活動でコンピテンシー教育を
いま、なぜ、野外活動なのか――。IBM はセールスやSE などの専門分野別スキル教育は得意とし、成果にも満足してきたが、「コンピテンシー教育についてはまだ改善の余地がある」との反省が出てきたのだという。
IBM では世界共通の“Foundational Competency”を掲げ、新人の採用や人物評価、キャリア形成の尺度として徹底させている。いわば、世界中のIBM 社員が共有し、体現するキーワードである。
「適応力」「お客様中心」「コミュニケーション力」「創造的問題解決力」「目標達成への推進力」「ビジネスへの情熱」「責任感」「チームワークとコラボレーション」「信頼感」の9項目からなるものである(図表1)。その中核として「お客様の成功」「イノベーション」「信頼と責任」という3つの“IBMers Value”を究極の価値として掲げている。
これら9項目のコンピテンシーを単に覚えるだけでなく、自ら納得し、自分自身がビジネス・パーソンとして成長していくための課題として引き受け、次の行動を起こすための動機づけにしていくには――。そこで、新入社員向けのコンピテンシー教育の第1ステップとして、野外活動による体験学習というツールを選んだのである。
「学生気分を払拭させるため、昔あった山中の行軍演習のような野外研修を採り入れてみては……という一瞬冗談ともとられかねないアイデアから始まりまして」と語るのは、人事・河野英太郎氏。野外活動を得意とする研修機関と協力して、他に例のない独自のプログラムをゼロからつくり上げた。一過性の体験に終わらず、終生忘れられない強烈な「原体験」を形成するような仕掛けが工夫されている。
非日常体験から気づきを得る
題して“Business Person Introduction”。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、この種の新人研修は、なるべく早い時期に実施しなければ意味がないと考えたそうだ。ただし、入社前教育で野外活動を行うとなると、責任問題に発展する可能性がある。そこで、入社式とセットにして4月3日(月)から2泊3日の日程で行うことに。会場は、苗場プリンスホテルを選んだ。都会から離れた山の中にあり、野外活動に適している。ユーミンがコンサートを開いたことで知られる大ホールを備え、約300 人の入社式が行えるのはもちろん、猛吹雪といった悪天候で野外に出られない時の使用にも耐える。
苗場へ出発する当日、東京は20 ℃と暖かく、桜の花吹雪の舞う花見日和だった。日本IBM およびIBCS(IBMビジネスコンサルティングサービス)の新入社員約300 人は本社に集合し、バス8台に分乗して出発した。やがて山道に入り、トンネルをいくつか抜けると、その向こうは雪国だった。桜吹雪から、一転して猛吹雪だ。
「どうなることやらと心配しましたが、翌日からは好天に恵まれ、予定どおりの野外活動を実施することができました」
降り積もった雪をかきわけての「雪中行軍」ではないが、研修の核となる野外活動は、ホテル周辺を2時間以上探索して回るもの。非日常体験のための絶好の舞台背景が整った。ちなみに今年の新人の多くは1982 年生まれ。八甲田山の雪中行軍のことなど、だれも知らなかったそうだ。