クオリティ・マネジメント手法を活用した 人材育成が競争力のある組織をつくる ―― TQM の効果を検証する――

中京大学の宮川教授は、クオリティ・マネジメントや本特集で取り上げたCDGM による新しいタイプのTQM が、企業の生産性や競争力、さらに従業員の意識にどのように貢献しているのかについての研究を行っている。CDGM や、それを通じて目指される「Joy of Work」は、日本国内においても、すでにいくつかの企業で実践されているが、それも踏まえて、クオリティ・マネジメントの重要性について、さまざまな例を挙げて宮川教授に報告していただいた。
グローバル経済時代に対応した人材育成が重要な課題に
社会・経済・文化のグローバル化が進展し、国際的競争が激化する環境のなかで、世界を相手に活躍しうる人材、多様な社会の要請に対応できる人材、さらに、新たな価値を創出できる創造性豊かな人材の養成が一層強く求められている。
こうした環境に対応した人材育成は、いまや国家や産業界においても、重要な課題として位置づけられ始めている。
例えば経済産業省経済産業政策局は、「平成18 年度
経済産業政策の重点」のなかで「人材、技術等の知的資産を重視した政策の展開」を掲げた。
このなかで、人材育成の課題について「企業活動を支える人材の育成について、高度人材育成プログラムの充実や産業界のニーズに応じた教育実施のための大学評価手法の開発等、産業競争力向上に資する人材育成環境の整備を図る」として、グローバルビジネスに対応した人材の育成の重要性を指摘し、次のように大学教育を含めた広範な人材育成の基盤の充実が課題になっていると述べている。
また、日本経済団体連合会も、2005年5 月に発表した「若手社員の育成に関する提言」において、次のような提案を行っている。
①社会人としての素養・基礎能力・職業観を培う教育の強化
②職務を通じての人材育成(職場のなかで仕事を通したさまざまな経験を積むことでキャリアを形成することに加え、若手社員が自主的にキャリアを考え企業がそれを支援する組織風土を育むこと)
このような政府や産業界の方針提言を引用するまでもなく、組織運営に必要なスピードある理解力、推理・洞察力、問題発見・課題解決能力を身につけた人材の育成は、焦眉の急である。
こうした現状を踏まえ、「次世代人材の国際競争力を強化する」ための具体的な方策として、80年代の米国の成功事例を参考に、現実的問題解決能力を向上させ、競争力を高める経営管理手法として注目されるクオリティ・マネジメントの導入による人材教育の実践例を紹介し、今後の人材育成のプログラムメニューの1つとして提案したい。
人材育成の観点からのクオリティ・マネジメントの効用を考える
トヨタやキヤノン等競争優位性のある企業をはじめとして、多くの企業が、企業組織の経営の質・人的資源の質を高め、「企業組織全体の質的向上」を目指す経営科学・管理技術手法であるクオリティ・マネジメントに注目している。
日本において「クオリティ・マネジメント」は、TQC( Total Quality Control) やTQM( Total Quality Management)など、主に製造業を中心にしたマネジメント手法として理解されてきた。そのため、「クオリティ・マネジメント」は「品質管理」というきわめて狭い意味での理解のなされ方が一般的になっているが、これからは、もっと広い意味での理解が必要であると考えている。
したがって、ここでは、青山学院大学の吉田耕作教授が、その著書『ジョイ・オブ・ワーク
組織再生のマネジメント』(日経BP刊、2005年)のなかで提唱した、次のような「クオリティ・マネジメント」の解釈を前提に話を進めていきたいと思う。
「(クオリティ・マネジメントとは)組織全体の目的をより効率的に達成するため、人間尊重の概念に基づき、組織内の人々が協調し、仕事のやりがいを呼び起こし、組織の競争力や永続的な生存力を高める経営の考え方である」
クオリティ・マネジメントのバイブルともいうべきデミング理論は、経営の質、生産性とコスト・品質、従業員の仕事の質とやりがい、サプライヤーや顧客との良好な関係にまで言及しており、一国の産業・企業および社員の競争優位を生み出す基礎理論の1つとなっているが、このマネジメント手法の実践がどのような成果をもたらしているか、実際の例を以下に示して説明したい。