新TQMはどのように実践されるのか QCサークル活動とCGDM の違い

かつて一世を風靡した日本型TQMと、新TQMを通じて競争力のある組織再生の手法として注目されているCDGMを対比しながら、その違いを明らかにしつつ、TQMがどのように実践されていくのかについて見ていくことにしよう。
新しいTQM の実践の活動単位がCDG
従業員の「ジョイ・オブ・ワーク」(仕事のやりがい)の実現を最大の目標として実践される新しいタイプのTQMも、従来のTQCと同様に小集団を活動母体として展開される。TQCのQCサークルに当たる小集団をCDG(Creative Dynamic Group)といい、CDG を活動単位として展開される、TQM の手法をCDGM(Creative Dynamic Group Method)という。
日本型のTQC、TQM(以下、便宜的にTQC と呼ぶ)と1980 年代以降のアメリカで展開された新しいタイプのTQM(以下、TQMと呼ぶ)の違いは「ジョイ・オブ・ワーク」を実現する新TQM の全社展開が企業の競争力を高める」(14 ページ)の通りだが、それにともなってTQM で展開されるCDG による活動も、QC サークルとは異なる点を持っている。
TQMでは、組織の競争力の向上は、その質と生産性の向上によってもたらされるということを前提にしている。そして、その質と生産性の向上を実現する源泉は、それぞれの職場で働く従業員である。この場合、重要な要素は、従業員の手足というよりはむしろ、彼らの頭脳であり、感情であると考える。
従来のTQC では顧客満足を第一に考えるが、CDGMでは従業員の「仕事の喜び」「働きがい」を第一に考える。さらに、CDGM では、現場の小集団(従来のQCサークル的なもの)だけではなく、技術者、研究者、管理者、トップマネジメントなどのホワイトカラーを含む、組織の構成メンバー全員に、この基本的な考え方が適用される。
つまり、CDGMは全従業員により構成される自主的なグループであり、職場での改善活動を通じて彼らの創造力を最大限に発揮させてジョイ・オブ・ワーク(仕事のやりがい)を実感できる職場をつくり上げ、その結果として、質と生産性を向上させ、組織全体の競争力を高めていくことや、顧客満足を実現させることを目的としているというわけである。
このため、CDGMでは、新しいことを学んだり、より高度な問題を解決したりすることを通じて、メンバーが自己実現を体験し、満足感や自己効力感(やればできるんだという自信の実感)を持つことを重視する。
本来の意味でのQC 活動も、こうした要素を持っているが、CDGMはそれをさらに強く意識し、不可欠のものとするということである。
CDGM とQC サークル活動との違いは何か?

さて、CDG は、QC サークルのように製造部門だけでなく、あらゆる職場の従業員によって自主的に形成される5 ~ 10名程度の小集団である。この構成人数について厳密なルールのようなものがあるわけではない。
CDGは初歩的なQCサークル的なものから熟練したQC サークルのようなものまでさまざまである。このほか、高度な専門知識を持った人々によって構成されるプロジェクトチームのような小集団や、多数のCDG の活動を統括するマネジメントのCDG が存在することもある。
このように、CDGMでは、多種多様なタイプのCDG が形成されることを許容する。というよりも、活動を通じて学び、熟練して、プロジェクトチームに成長することも狙いとしている。
その意味では、CDG は、将来プロジェクトチーム的なCDG になるための、メンバーの学びの場でもある。
組織のなかで複数形成されるCDGは、それぞれ自主的にテーマを設定し、独自の活動を展開するが、ばらばらの活動ではなく、最終的にはジョイ・オブ・ワークの実現や、質と生産性の向上を通じた組織の競争力強化という大目的の下につながっている。このため、各CDG はこの大目的と整合性のあるテーマを設定することが求められる。
CDGのTQM活動は、計画(plan)-実行(do)-評価(study)-改善(act)のPDSA サイクル(デミングサイクル)を回すことによって行われる。
ちなみに、PDCAサイクルは、デミング博士の師シューハート(W.A. Shewhart)が考案したものといわれるが、デミング博士は80 年代半ば頃から、PDSAサイクルという言葉を使い出した。PDSAサイクルとPDCAサイクルの意味はほぼ同じだが、評価(study)は、P D C A サイクルのチェック(check)よりも、もっと徹底的に問題の原因を究明し、それを通じて学ぶという意味が込められている。
TQM ではPDSA サイクルを回し続けることによって、学び続ける組織をつくり上げる狙いを持っている。また、CDG が問題解決アプローチのためPDSAサイクルを1回転させても、完全なものにはならない。むしろ、最初は失敗することさえ見込んでいる。しかし、この失敗のマイナス評価はしない。失敗は成功に至るのに必要なプロセスと考えるからである。
そして、CDGM では、すべてのCDG が参集して活動するラウンドテーブルが重要な役割を果たす。このラウンドテーブルが成果の集約の場であり、互いに刺激し合い、学びを促進させ、充実感や喜びを感じる場となる。