連載 はじめに夢ありき 第11 回 次の3 年、人事は 何をコミットすべきか ~自社の人事コンセプトから戦略をつくる~
久々に……という言い方も語弊があるが、今、企業の人事部門は久々に多くの仕事を抱えている。来年から始まるとされる団塊の世代の一斉退職、定年延長や再雇用の運用。この大量退職を見越した、バブル期以上の採用戦線の活発化、技術技能の伝承、ワークライフバランスや女性の活用、グローバル化の進展対応が望まれる。また、2013 年には労働力不足に陥るとの予測もあるが、その対応策としての外国人活用、成果主義の見直しや、価値観の多様化に伴う社員の離職問題など、人事的課題が山積している。
人事コンセプトから課題を考える
現在の人事部門は多くの課題を抱えている。団塊世代の一斉退職や再雇用、採用の活発化、グローバル化対応など、枚挙にいとまがない。
では、こうした現下の状況を見据えて3 年先、5 年先を見越した人事戦略を考える時、現在の人事には何が求められているのだろうか。
人事戦略構築というと、一般には自社の経営や事業動向などの社内環境分析と業界動向や経済・社会動向などの社外環境分析から入り、世の中のトレンドに乗るかたちでつくることが多い。しかし、このやり方には反省がある。1980年代のバブル経済の「ハコモノ人事」や、90年代の成果型報酬制度やコンピテンシーなどのアメリカ版HRM のブーム的導入など、先例や借り物の流用人事制度に陥りやすい。
こうした反省から考えると、今一度自社の人事コンセプトに立ち戻り、そこから戦略を考えてはいかがだろうか。①採用・雇用、②人材育成・開発、③配置・活用、④評価、⑤処遇・報酬、⑥組織、⑦従業員関係の7 領域の人事のコンセプト(ありたい姿・価値観)を確認し(または描き)、そこから現実をきちんと見て、課題を抽出するやり方である。
こうすれば、人事の志が入り、独自の課題となり、本質を問う人事戦略づくりになる。
① 採用・雇用
将来最適で雇用をマネジメントする
採用・雇用を考える時、最も大切なのは「現在最適」ではなく、「将来最適」で雇用をマネジメントするという視点である。先述したとおり、バブル期以上の採用が始まっている。このような状況下で、現在最適的な採用を実施すると、勢いで雇用を増やすようなことになりかねない。
87年から91年頃までのバブル期の採用を思い出していただきたい。今、あまりスポットが当たっていないが、この頃の「バブル入社組」が一定の年齢になり、その処遇をどうするかが多くの企業で現実問題となりつつある。
逆に、その下の年齢層は極端に少なく、いびつな人員構成になっている。この時もう少し先を考えて、つまり将来最適で採用を行っていれば、このような事態は避けられたはずだ。
大事なことは、常に「雇用を規制する」ことである。いたずらに採用を増やしてはいけない。これがバブル期の教訓だ。
また、現在のように雇用需要が増えた時こそ、門戸開放と混血主義を進めるよい機会として活かしたい。ようやく日本も多様な人材を世界中から集める環境が整ってきた。すべての人員を日本国内から、また新卒からまかなう必要はない。ぜひとも門戸開放を進めていただきたい。
採用に関してもう一つだけ言えば、「採用にも自社らしさを」ということだ。多くの企業がホームページでのエントリーシートを使った採用を行っているが、どの企業もシートは似たり寄ったり。学生も、就職課などでエントリーシートの効果的な書き方などを教えられているので、似たり寄ったりの内容を書いてくるだろう。
これではかえって、大学名で選ぶという悪習が強化されかねない。多様な人材を選ぶなら、採用方法も多様に、と思う。「雇用を規制する」「門戸開放」「混血主義」といったコンセプトから採用戦略を考えると、自ずから、そのアプローチも変わるのではないだろうか。
②人材育成
人が育つ環境・プロセスをつくる
採用したのちに問題になるのは育成である。以前も書いたが、育成のポイントは「差でなく違い」で見ること。この視点を持つことで個々人の持ち味や個性、いいところがよく見えるようになる。
もう一つは、人材育成にもグローバルな視点が必要である。それぞれの階層・役割において、世界に通用するプロフェッショナルな人材を世界中で育成する。