人材教育最前線 プログラム編前編 富士通 コンピテンシーラーニングで中堅社員の 「行動」と「意識」変革を促す6級昇級者研修
職場リーダーの職責を担う6 級昇級者を対象に2003 年から「コンピテンシーラーニング」を軸にした研修を展開している。同グループがこの層に対して期待する最大のコンピテンシーは、集団や組織が求めていることに気づき、周囲に働きかけるリーダーシップであるという。この研修の導入背景、具体的ポイントとなるコンピテンシーラーニング等について、今回と次回にわたって紹介する。
富士通グループの人材開発の軸になるもの
国内外に100 社以上のグループ企業を抱える富士通グループでは、現在16万人以上の従業員が働いている。02年4 月、この多数の人材や組織のナレッジを結集し、高度人材を育成しようと「FUJITSU ユニバーシティ」が設立された。以降、FUJITSUユニバーシティを中心に人材育成戦略とそのシステムを一元化し、グループとしての独自の価値と新たな改革を生み出す人材育成に取り組んでいる。
FUJITSUユニバーシティ設立と同時に、それまでの階層別研修のあり方をはじめ、研修内容に関しても見直しが進められた。なかでも今回注目したいのは、03年に「6級昇級者研修」(図1)にはじめて導入され、現在では富士通グループ全体の人材育成における1つの柱となりつつある「コンピテンシーラーニング」である。
コンピテンシーラーニングとは、自分に求められるコンピテンシーを理解し、日々の業務の中で発揮できるような形で身につけていく(=ラーニング)ために開発された、実践的な能力開発手法だと考えればわかりやすい。コンピテンシーそのものは目新しいものではない。しかしそれを身につけ、さらに向上させてゆく具体的方法論は、必ずしも存在していなかった。
コンピテンシーラーニング提唱者の九州大学大学院人間環境学研究院教授・古川久敬氏は、「よく研修は『気づき』を提供するものだと言われます。その意味では、コンピテンシーラーニングは『理論的な気づき』と『実践的な気づき』の双方を狙ったものです」と語る。古川教授は「コンピテンシーラーニング能力=経験学習力」と考え、コンピテンシーを既に持っているかどうかだけではなく、「それぞれの業務において求められるコンピテンシーを身につける能力を持っていること」が重要であると指摘する。この視点に立ち、効果的な学習方法を学ばせるのがコンピテンシーラーニングだと言えよう。
将来の中核人材に対しリーダーシップ獲得を促す
富士通では一体なぜ、このコンピテンシーラーニングを6 級昇級者研修に導入したのだろうか。「6級」とは同社の中では課長予備軍にあたり、数人の部下や社内外の関係する人々をまとめるリーダーを担う層である。昇級する年代は20 代後半から30 代半ば。この年代は将来組織の中核を担っていくことを期待されており、このような6 級職者に対して、富士通が企業として期待する最大のコンピテンシーはリーダーシップである。
ただしこの場合のリーダーシップとは、必ずしも組織の長だけが発揮するものを意味しない。リーダーシップとは『リーダー性』のこと。つまりリーダーシップとは、管理職だけが発揮すればよいといったものではない。「集団や組織が求め、必要としていることに気づき、周囲に働きかけ実現することがリーダーシップの本質です。それゆえに、誰もが各々の業務の中で発揮すべきものです。お客様や社内外の関係する部門の視点で働きかけることもリーダーシップには求められます」と古川氏は語る。
コンピテンシーラーニングは03年に九州地区のグループ会社、計14社に試験的に導入された。この第一陣からの参加企業である富士通九州システムエンジニアリング(FQS)の総務部人材開発課・藤氏は次のように語る。