連載 調査データファイル 第67 回 長時間労働を考える裁量労働制と ホワイトカラー・エグゼンプション
日本社会で問題視されている長時間労働。政府は、年間労働時間を1,800 時間にするという政策を掲げたが、実情は、その値を大きく超えるものとなっている。それは、日本の企業社会の働き方そのものが原因だ。
経営者はもちろん、労働者の意識が変わらなければ問題解決にはならない。調査データを使い、長時間労働の現状とその対応策を検証してみた。
1. ホワイトカラー・エグゼンプションと裁量労働との違い
「ホワイトカラー・エグゼンプション」とは、裁量度の高い働き方をしているホワイトカラーに対して、企業による時間管理の枠を外して、自由に働いてもらおうという人事制度である。
労働時間と、仕事の成果が必ずしも比例していない職務の場合、突然アイデアが浮かび一気に仕事がはかどり、帰宅が遅くなってしまうといったことがしばしばある。こうした場合、同制度では、次の日の出社は午後からでも“OK”という働き方も可能になる。
しかし、労働時間規制の除外制度の導入に際しては、当然のことながら労働者側の反対が強まる。事実、この制度の導入を審議した労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の労働条件分科会では、導入を強く迫る経営者側に対して、労働者側は「残業代ゼロ制度」を強く批判し、導入に猛反対している。
また、すでに導入されている制度で、裁量労働制がある。この制度も、労働時間管理とは、一線を画した裁量度の大きい働き方ではあるが、労働時間管理を完全に適用除外されているわけではない。深夜労働や休日労働をすれば、その分、割増賃金が支払われる。つまり、「裁量労働制」と「ホワイトカラー・エグゼンプション」の違いは、割増賃金が支払われるかどうかということにあり、これが「残業代ゼロ制度」と言われる所以なのである。
ところで、労働の専門家でない一般国民の何割が、「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度と「裁量労働制」の違いを認識していたのであろうか。ほとんどの国民は、それぞれの違いを理解していなかったのではなかろうか。
それゆえ、長時間労働やサービス残業が社会問題となり、過労死の報道がしばしば流れる、最近のストレス社会に身を置いていれば、ジャーナリズムで張られた「残業代ゼロ法案キャンペーン」を受け入れてしまうことになる。新しい制度を導入するためには、周到な普及キャンペーンが必要であることを示唆している。