企業事例 新日本製鐵 大規模e ラーニングへの挑戦 コンテンツを 魅力的に作る努力が大切
2005 年度、新日鐵では1 万人余りの社員を対象にしたe ラーニングシステムを導入した。そして、コンテンツを順次作り上げ、開講している。そして運用開始から1 年余りで、順調な成果を上げてきた。
その大規模e ラーニングシステムの導入から、コンテンツ作り、評価の方法について新日鐵の吉留徹氏に話をうかがった。
調査段階で有効性を確信 半年で試験プロジェクトへ
e ラーニング導入に向けて動き出したのは、2005 年1 月のこと。吉留氏が業務プロセス改革推進部ITグループに配属された際に、検討が始められたという(図1)。
「一部の製鉄所で、個別に検討されていましたが、実現していませんでした。実現していたのは、人事部が採用内定者に対して行う語学教育だけでした。ただ私の検討も、絶対にe ラーニングを導入するんだ、といった強いものではなく、新日鐵でも使えるのかどうか、試してみようか、という感じでした」そこで吉留氏は、e ラーニングに関するセミナーへ積極的に参加し、e ラーニングの有効性を検証。ほどなくして、ある程度の手ごたえをつかむことができたという。
その後、調査開始から半年も経たない2005 年6 月には、某ベンダーの厚意もあり、“お試しプロジェクト”の実施までこぎつけた。
“お試しプロジェクトのコンテンツは、情報セキュリティ。既に市販されていたものを使用した。受講者は20名。その半数はシステム部門の社員を選んだ。
「“お試しプロジェクト”で評価した点は、2つあります。1つはツールとしての有効性、2つ目は市販コンテンツのフィット感です。結果として、ツールとしての有効性は参加者全員が認めましたが、コンテンツについては、これまた全員が“8割はOKだが、2割は新日鐵に馴染みが薄い”という評価でした」
そこでe ラーニング導入にあたっては、新日鐵にフィットした独自のコンテンツを作るという方針が立てられた。
この判断の背景には、吉留氏が頼りにした某大手商社の意見が参考になっている。
「その会社では、市販コンテンツをベースに、一部自社向けにカスタマイズして自社コンテンツを作ったそうです。それが近道と思ったからです。けれども、実際にカスタマイズをしてみると、全くゼロから作るのと、ほとんど変わらない手間がかかったというのです。この話を聞いていたことが、独自にコンテンツを作ることにした大きな理由です」
“お試しプロジェクト”の評価を踏まえ、役員を含む関係者の了解を得て、新日鐵のeラーニングがスタートした。
コンテンツ作成の秘訣は受講者層と学習内容を明確にすること
eラーニング導入にあたり、初回は情報セキュリティ、第2回は独占禁止法、と矢継ぎ早に粗日程も決まった。そのため、社内にLMS(Learning Management System 学習管理システム)を構築する時間的な余裕はなく、LMSははじめからASP(注1)を利用する前提だった。
初めてのe ラーニングにあたり、何から始めたのだろう。
「情報セキュリティの関係者で最初に議論したのは、受講者は誰なのか、受講者は任意なのか必須なのか、ということです。結論から言えば、受講者は、新日鐵でメールを使っている人すべて。受講は必須としました。実は、新日鐵でメールを利用している人間が何人いるのか、これまで全社的に数字を正確に把握したことがなかったのです。今回初めて全社的な棚卸を実施し、その結果1万人いることが判明しました。びっくりしましたよ。1万人もいるの?って。勿論この中には社員だけでなく、派遣会社や関連会社社員などの準社員と呼ばれる人も含まれています。
準社員の数を聞いて、2度びっくりですよ。え、準社員がこんなにいるの?って。その意味で、eラーニングはいろいろ副次的な効果を生み出しました。受講を必須としたのは、情報セキュリティ教育は、ネットワーク利用の運転免許のようなものと考えたからです。
何も知らずにメールやインターネットを利用するのは、無免許運転と同じじゃないかと」
受講者が決まり、受講は必須ということが決まり、次にコンテンツの作成に入った。
「コンテンツの製作は、前述の某商社のコンテンツを見せてもらったり、“お試しプロジェクト”のコンテンツを参考にしながら進めましたが、注意した点は受講者の層が幅広いという点、初めてのe ラーニングという点です。受講者は、新入社員、派遣社員から役員まで。年齢も職種もバラバラです。全員がパソコンに慣れているという訳ではありません。パソコンの操作方法がわからないとか、画面がフリーズしたとか、一度不満を感じると、二度とe ラーニングをやってくれなくなるかもしれません。その意味で、第1回目は、e ラーニングに慣れてもらうという色彩が強かったと思います」