企業事例 三井化学 現場発のe ラーニングが本社を動かす どのような効果を発揮したいのか。 それを把握することが成功の秘訣
“どうすれば教育効果を上げられるか”その一念ではじめられた三井化学岩国大竹工場のe ラーニングは本社へ発信され、いまや全社展開を図るまでの成功をおさめた。他社の真似ではなく、まずは教育体系を構築し、自社の環境にあった仕組みを作るその手法とはいかなるものなのだろうか。導入の経緯から設計、実践までをリードする西岡洋氏に話をうかがった。
ハイレベルな技術習得を目指す仕組みを整えるために
三井化学におけるe ラーニング導入を語るには、話を1980年代後半までさかのぼることが必要であった。
当時、三井化学岩国大竹工場(山口県)では、プラントを制御するコンピュータ、DCS(Distributed ControlSystemの略=分散制御システム)を導入していたが、その活用技術がなく、導入前にパネル計器を人間が制御していたように、DCSも手動でコントロールしていた。そのため、DCSの導入効果を上げられない時期が長く続いていたという。
1992年、その状況を打破するために、工場内に「DCS活用技術研究会」が設立された。その運用方法を学ぶばかりでなく、ソフトウェアの開発まで手がけ、工場内にDCSを扱う上でのキーマン、約30名の育成に成功したのである。
この「DCS活用技術研究会」は3年の時限で設立された組織であったが、生産性向上への寄与が工場のトップにも認められ、ここから輩出されたキーマンのうち、20名を講師に任命し、さらに発展的な社内教育組織「SHEF」を、1996年に立ち上げる運びとなった。
SHEFとは、“System technology Hi-level Education Forum”の頭文字をとったものである。そこでは今までどおりの“DCS活用技術”についての教育ばかりではなく、社員のパソコン技術向上、そしてDCSの上位に位置するプロセスコンピュータにかかる技術まで扱うものであった。
そして、各10ヵ月のクラスは“入門、上級、マスタ”の3つに分けられ、認定試験を経て上のクラスへ進級していくという、まさにハイレベルな技術習得を目指す仕組みを整えたのである。
有志が立ち上げた勉強会がすべてのはじまり
本来であれば、SHEFは上級クラスで修了するところであるが、その上のマスタクラスは講師と同様の技術を身につけたい者に向けて設立されたものであった。そのマスタクラスを修了し認定試験に合格した者には、「プロフェッサー」の称号が与えられた。
そもそもDCS活用技術委員会にしてもSHEFにしても、社内の有志が自発的に集まり立ち上げ、会社の了承を得て活動をはじめた組織であった。
ゆえにプロフェッサーになっても、処遇に反映されるわけではない。けれど、プロフェッサーは一目見てそれと分かる赤いワッペンを付けることができ、優秀な技術者として工場内で尊敬の眼差しを受ける存在なのである。
またSHEFでは、マスタを修了した者が上級クラスを教えるという形態をとっている。SHEFは、工場内のさまざまな部署から社員が集まる場であり、部署を横断して先輩社員が技術やノウハウの伝承を行う文化が自然に醸成されていったのである。
こうして三井化学岩国大竹工場で行われてきたSHEFによる社内教育は、一定以上の成果を上げてきたが、時間の経過と共に、問題点も噴出してきた。講師とて業務を抱える1人の社員。あくまで専任ではない。そのため教育内容の増加にともない負担が大きくなり、また教育効果や効率も停滞しはじめ、最新のナレッジスキルを教育に反映したいという要望もでてきた。
「そんな折、ある社員がこんなものがあるらしいと提案してきたのがe ラーニングだったのです。SHEFからは、各地のセミナーに社員を派遣して、いろいろな情報収集を行ってきたのですが、そこから持ち帰ってきました。これならグループウェアこそ違え、今までやってきた方法をアレンジすれば、効率よくできるかもしれない。さらに自前で手がけてきた教材を引き継ぎ、問題点の解決策としても有効かもしれないと思い、導入の検討をはじめたのです」
西岡氏はそういって、当時を振り返った。
e ラーニング導入にあたり掲げた3 つの目標
e ラーニング導入にあたり、まずはじめに考えたのは、そもそも“e ラーニングとは何なのか?”という疑問を解消することであった。それを理解できなければ、成果が上がるわけはないと考えたからである。
そこで、専門のベンダーに依頼し“eラーニングの概要”の説明を求めた。しかし、多くの営業担当者は、どのようなソフトを使い、どれだけ手間が省けて便利に学習できるかという自社製品の特徴については雄弁に語るものの、“eラーニングとは何か”という本質については、曖昧な答えばかりであった。
結局、三井化学岩国大竹工場がパートナーとして選んだのは、e ラーニングを理解しやすい言葉で説明し、教育工学の視点からアドバイスをしてくれるところであった。