My Opinion ―③ e ラーニング活用企業の 現状と今後
~導入動向と先進事例から見た IT支援型企業内人材育成の新しい動き~
急速に変化する企業の人材育成ニーズに迅速・的確に対応するためには、eラーニングに代表されるIT 活用レベルが成否の鍵を握っている。日本のeラーニング導入は、大企業で約9 割、中小企業でも約4 割と広く浸透しており、企業内人材育成のインフラの一部になりつつある。本稿では、eラーニングを中心とした企業内人材育成におけるIT 活用の動向と先進事例を基に、現状の把握と今後を展望する。
e ラーニング活用をめぐる2 つの疑問
アメリカの影響を受けて、日本でeラーニング・ブームがはじまった2000年から、既に7年が経過した。その間、ITバブルの崩壊などで、eラーニングは一時下火になったかに見えたが、新たな人材育成ニーズに対応するために、eラーニングを中心とするIT活用が拡がっている。
明確な人材戦略に基づき、人材育成に先進的な企業の中には、欧米の先進企業に比肩する取組みを行っている例もある。
しかし、一部の先進企業を除いて、人材育成におけるIT 活用の重要性が、必ずしも理解されているとはいえない状況にある。むしろ、日本企業のeラーニング導入・活用状況について、次のような疑問を持っている人が少なくない。
第1の疑問:知識習得型の全社一斉教育には効率的だが、実務教育に使えるのか? また、社員は積極的に利用されているのか?
第2の疑問:eラーニングは研修手段のIT化に過ぎず、業務改善には直接役立たないのではないか?
上記の点について、eラーニングを中心とした企業内人材育成について最も包括的な、経済産業省『eラーニング白書』の近年のデータと、筆者の人材マネジメント関連の調査・コンサルティングの経験を基に検討してみよう。
その前に、『eラーニング白書』を紹介するとともに、eラーニング導入の概況について確認しておきたい。これには、eラーニング導入状況のみならず、企業内人材育成におけるIT活用の動向についてのアンケート調査結果などが収録されている。さらに、筆者が執筆に携わっている『eラーニング白書2005/2006 年版』と『eラーニング白書2006/2007 年版』では、先進企業の事例研究に力を入れている。業種としては、情報通信系に加えて電気機器、自動車、自動車部品、金融・保険、食品加工、電気・ガス、小売、旅行代理店、人材派遣、健康食品・化粧品、商社、印刷、建設業と多岐にわたり、過去2年間で34件の具体的な事例がある。事例の件数と詳しさから、eラーニングの先進的な動き全体を捉える対象として適切であろう。
次に、e ラーニング導入の概況を見てみよう。企業規模別では大企業で9割、中小企業でも4割近くに達している。また、業種別では、eラーニング普及初期はIT 系企業が大半であったが、最近は産業界全体でITインフラ整備が進んでいることもあり、他業種にも拡がっている。「情報サービス等情報通信業」の8 割近くが導入と際立っているが、他の業種でも4 割以上が既に導入し、導入検討中を入れると6 割近くに達している(図1)。