My Opinion ―② e ラーニング導入には 長期的ビジョンが不可欠
急速な社会の変化が、企業とその個々人を取り巻く時代にあって……。時代の要請に、いかに素早く対応し、その中で人を育てていけばよいのだろうか。
考え方や使い方次第で、その効果が大きく変わってしまうIT支援の教育ツール。インストラクショナルデザインの第一人者である寺田佳子氏に、eラーニング導入と活用のポイントを伺った。
e ラーニングなしで語れない社員・人材教育
現在、企業の社員教育・人材開発において、e ラーニングは大きな広がりを見せている。
かつての企業内教育では、ご存知の通り専門分野ごとに講師をたて、教室に社員を集めて行う研修スタイルが一般的であった。
しかし、昨今のビジネススピードは予想を超えて速く、また社員に伝えていかなくてはならない知識やノウハウも増え続け、専門化の一途を辿っている。そういった現状で、現在の教育スタイルだけで続けていくことは、もはや困難な時代に変貌を遂げているのである。
そこで、多くの企業がe ラーニング導入に注目してきたわけだが、一方で大きな問題も表出している。それを平たく言えば、e ラーニングさえ導入すれば、その企業の社員・人材教育は薔薇色と考えるような風潮である。
けれども、ここに大きな誤解や錯覚があるわけで、それをしっかりと見直していかないと、貴重な時間や労力、コストが無駄になってしまう。
e ラーニングの4 つの有効性
ここでe ラーニングとは、いったいいかなるものかを、今一度復習してみたい。
ご存知のようにe ラーニングは、パソコンやネットワークを通じて、教育コンテンツを発信・受講するシステムである。e ラーニングの代表的な有効性は、次の4つと考えられている。
●時間的有効性
●空間的有効性
●専門分野に対する有効性
●コスト的有効性
これに関して、多くの企業でe ラーニング導入の経験をもつ寺田氏は言う。
「まず“時間的有効性”ですが、社員が自分の空いた時間を使って学べることが最大のメリットです。以前のような研修では、決められた時間まで否応なく拘束されるので、本来の業務に支障をきたすこともありえたわけですが、商品質のe ラーニングではそれがありません」
また、社員がすでに知識やノウハウとして持っているカリキュラム部分を、自ら省いて受講できるという意味でも、e ラーニングの時間的有効性は高いという。
「次に“空間的有効性”は、地方の支社や工場の社員が、はるばる研修会場に集まらなくても受講できることが挙げられます。これは時間的有効性という面でも同じです」
一方、“専門分野に対する有効性”と“コスト的有効性”は、おもに企業側、カリキュラムを作成する側のメリットである。
「“専門分野に対する有効性”は、教育内容の専門性が高まり、多様化している現状で、大きな意味を持ちます。研修ですと、できるだけ多くの人に対し、1度に教えた方が効率がいいわけですが、そうすると研修内容で個々の専門性を考慮することは難しくなります。それに比べて、e ラーニングなら専門的に細かく分けて、コンテンツを提供できますから、画一的な教育内容に陥らなくてもすみます。“コスト的有効性”は、これまでの有効性を考えれば言わずもがなです。どれだけ多くのコンテンツがあっても、1度つくってしまえば再利用可能ですから、同じ教育内容の研修を、何百回と行うよりもコストがはるかに抑えられるはずです」