人材教育最前線 プロフェッショナル編 技術がアップデートされるように 教育も随時更新していく
24 時間稼働している東洋ガラスの工場では、社員の8 割以上が技術者。その仕事は非常に専門性が高い。生き物のようなガラスを扱うには、多くの経験とセンスに裏打ちされた高度な技術が必要だ。それがコツやツボであり、テキストやマニュアル、研修だけではまかないきれない職人の技だと、柴田淳氏は言う。団塊世代の一斉退職を控え、メーカーならではの課題である「技能伝承」への取り組みと専門教育について、柴田氏に聞いた。
現場のトレーナーから人事教育部門担当へ
私たちが手に取るさまざまな飲料や、調味料、食料のびん。東洋ガラスは、これらのガラスびんや各種ガラス関連製品を製造する日本有数のメーカーだ。
ガラス製品ができるまでの大まかな工程は7つ。ガラスの原料を調合し、炉に入れて溶解、溶解したガラスを成形、熱を帯びた製品を均一に冷却、品質を検査し、仕様に応じた加工がされ、製品として包装・梱包される。
技術者として入社した柴田は、できあがったガラスびんの強度や寸法などが基準に合格しているかをチェックする品質管理部門に8 年、溶解したガラスを所定のガラスびんの形に成形する成形部門に7年勤務した。
品質管理部門に在職中は、技術教育や品質管理の講師も担当。「教えるということは面白い。技術教育をしてみたい」と思いはじめる。その思いが伝わり、1993年に本社の教育担当になった。
当時、社内研修として運営していた講座は20以上。ガラスの作り方といった基本から、ガラスびんの成形、ガラスのひずみの処理の仕方、強度や設計の基礎、自社開発している検査機械についてなど、内容は多岐にわたった。
また、自らもガラスびんの表面処理といった技術面の講師となり、さらにKJ法やNM法といった論理的思考についても担当した。
メーカー特有の課題である技能伝承
ガラスメーカーは、工場内での作業が主要基幹であるため、特有の教育環境にある。まず騒音職場であり、座学による教育は難しいという点だ。そのため、教育の中心はOJTである。大卒新入社員は、ガラスの作り方から成形機械の構造まで、いろんな部署で教育を受ける。中間製品を作ったり組み立てるといった一般の製造業と違い、ガラスメーカーは、原料の調合から完成品(びん)までの一貫生産で、その内容は多岐に渡っている。大卒新入社員は、事務系で最低3 カ月、技術系では1 年間の現場実習で、ガラスの作り方を理解していくのだ。
そして、もう1つの特徴は、工場が24時間稼働していること。そのため工場に勤務する技術者は、職場単位でそれぞれ4チーム、3 交替制をとっており、このチームは窯ごとに構成されている。ガラスの原料を溶解する窯は、1年365日、一度も火を止めることなく10年以上動き続けている。窯の火を落とす時は、その窯を作り直す時。窯が止まれば、成形や検査などのラインはすべて止まり、新しい窯に合わせて全ラインを更新していく。
このため、窯を止めてみてはじめて、窯の中がどのようになっていたか、わかることもあるという。材料の改良などで、昔は5 年しかもたなかった窯の耐久性もあがり、現在は窯を止めて見るという経験は、10 数年に1 回しかできなくなった。
柴田は「窯を止めて見ること1つとっても、今は経験が少なくなっている。伝承できる範囲の技術はみな伝承していても、講座ではまかなえない技術、経験によってしか得られないコツやツボが確かにある」ことを実感した。