ASTD2007国際カンファレンス&エキスポレポート 学習の価値が企業業績を左右しはじめた
6月3~6日、企業や団体の教育担当者、トレーナー、コンサルタント、コーチ、大学関係者を集め、ASTD(American Society for Training and Development : 全米人材開発協会)2007国際カンファレンス&エキスポがジョージア州アトランタで開催された。
グローバルに拡大するASTD
ASTDは年々規模を拡大しているが、今年は約9300人(うち米国外:78 カ国、1900人)を集客(図表1)。最近はグローバルな視点を取り込もうとしており、参加者のみならず、アジア、ヨーロッパ、アフリカからのスピーカーも増えた。
内容を見ても有名人や重鎮が顔をそろえ、名実ともに教育業界における全米最大のカンファレンスといえる。たとえば日本でも「ビジョナリー・カンパニー」で知られているジム・コリンズ氏。彼を含めた3回の基調講演、ASTDコンピテンシー・モデルの専門分野と連動させた9分野、約230の分科会(図表2)。エキスポ会場には約380社が出展した。
ネットワークづくりを支援するため、各種ラウンジや、スピーカーとのチャットセッション、サイン会、夕食会などさまざまな「場」も用意されている。今年は初の試みとして「ラーニング・ラボ」が行われ、カンファレンス開催前からWiki(P72参照)を使いながら参加者同士が情報共有する機会も提供された。
アメリカの背景と企業の抱える課題
活気を呈するASTD。それでは参加者の背景、課題は何か。
(1)採用難と歯止めのかからない転職
イラク戦争やテロとの戦いが続き、不安定さが続くアメリカ。しかし景気は、業界や企業により異なるものの、全体的に上昇を続けている。またそれを反映し、失業率は低めで安定を保ち、採用難の状況だ。管理職に多いベビーブーマー世代の退職が始まること、そして今年最年長者が30歳となるY世代(1977~2000年に生まれた世代)の引き留めが難しいことから、ITバブル期のように人材不足を懸念する声が至るところから聞こえてくる(図表3)。
(2)変化の加速化、問題の複雑化
アメリカは個人主義社会といわれるが、1人では対応できないほど変化は加速し、問題は複雑化している。そのため、スタープレーヤーだけでは成長できないことを企業は実感して、社内のチームやコミュニティづくりを意識するようになった。
集合知(Collective Intelligence)、実践コミュニティ(Community of Practice)、チームビルディングなどが盛んに取り上げられ、部門を横断した情報共有や問題解決を促す組織開発に力を入れている。
(3)グローバル化
M&Aや提携、海外生産、アウトソーシングにより、国外の売上比率や社員比率は年々高まっている。特に中国における事業規模は急速に拡大。海外出張や交渉も増え、米国本社は他国の影響を無視できなくなっている。
また、同時に国内のグローバル化も進んだ。4~5年前の予測をはるかに上回るスピードで、ヒスパニック系と中国系の人口が増加。社内の人口構成を大きく変え、意思決定にも影響を及ぼしている。
(4)極端な成果志向とコスト削減
株主優先主義とコスト削減から成果志向はさらに強まっている。業績の低迷で、即座に解雇される経営幹部も増えた。1995年、上場企業のCEO平均任期は11年といわれたが、現在は5~6年と短くなっている。短期で成果を出し、株価に反映させる動きが目立つようになり、長期的な戦略立案や取り組みがおろそかになりつつある。
成果に結びつかないものは切り捨てられる傾向が顕著になり、それが皮肉なことに、あるいは幸運なことに、教育効果測定を浸透させている。