企業事例 新日鉄エンジニアリング プロ人材育成とチーム力強化の徹底がリーダーシップを育成する
昨年、新日本製鐵から分社・独立して誕生した新日鉄エンジニアリングでは、組織づくりの一環と重要な経営テーマとして人材育成の基盤づくりが進められている。
同社が目指しているのはプロフェッショナル育成とチームビルディング。
組織とプロジェクトにおける多様な役割に合わせた、リーダーシップ育成について取材した。
新会社の4つの価値規準
新日鉄エンジニアリングは、製鉄プラント、環境ビジネス、海洋資源・エネルギー、建設・鋼構造の4事業分野で「それぞれトップ3になること」(トップ3戦略)を目標に掲げ、組織基盤づくりに取り組んでいる。これらの4事業は、同じエンジニアリング事業といっても、その事業形態、専門性から、独立色の強い事業である。このため、この4分野の事業をどのように連携させ、そのシナジー効果を発揮して、同社ならではの強みや付加価値をいかに構築していくかが大きな課題になっている。
同社の仕事の単位はプロジェクト。いずれも生産の拠点・利益を生み出す拠点は、国内外の客先の現場で、プロジェクトごとに仕事の諸条件が変化するため、柔軟なプロジェクト遂行能力が求められている。そういう意味で、「最も重要な事業リソースは人にある」という基本認識がある。こうしたこともあって、経営サイドの人事部門に寄せる期待は大きい。同社の羽矢惇社長が「人材の成長ではトップ1の企業を目指そう」(「ヒューマンリソース・グロース・トップ1」)というスローガンを掲げているのも、その現れである。
総務部人事室マネジャーの折笠光子氏は、人事・人材育成面の課題について、「昨年発足したばかりの企業ですから、まず社員の一体感をどのように醸成していくかが当面の最大のテーマになっています」と語る。
同社の4つの事業部門は、それぞれ、仕事の進め方も専門性も異なり、「まるで違う会社のような、それぞれ独自の職場風土、組織文化をつくってきた」という。これまでは、大くくりだが「新日鉄の社員」としてのアイデンティティがあった。これが分社化により、揺らぎが起こることが懸念されたことと、新日鉄エンジニアリングとしての一体感を醸成するためにも、新たな核をつくりあげる必要があるということだ。
こうしたことから、同社では、社員1人ひとりがビジネスを遂行する際の拠り所として、次の4つの価値規準を設けた。
①現場・挑戦(ビジネス現場から発想し、挑戦する心を重んじる)
②技術・革新(技術の可能性を探究し、たゆまぬ革新を重んじる)
③人材・協働(プロとして自らを高め、人を育て、チームの力を重んじる)
④公正・信頼(ルールを守り、信頼を重んじる)
折笠氏は新日鉄時代の2004年に、10年近く所属していた製鉄プラントの営業部門からエンジニアリング部門の人事室に異動した。当時は新日鉄の一事業部門として人材育成も新日鉄本体の施策に連動しており、エンジニアリング部門としての人材開発を考える体制や仕組みが整っていなかった。
このため、人事室では、まずは職場の実態把握から取りかかった。最初に取り組んだのが組織風土・人事制度アンケートによる社員の意識調査である。この調査を通じて組織、人事・人材育成制度などについて、会社に対する不満や要望を含め社員の率直な思いを調査・分析した。