歴史から学ぶリーダーの心得 リーダー学のバイブル『貞観政要』をこう読む
唐の太宗の時代。この頃は、中国の歴史の中で最も理想的な政治が行われていた時代といわれている。それゆえ、太宗と家臣との間でやりとりされた言行をまとめた『貞観政要』には、一国を導く者の在り方が記されている。
人の上に立ち、治めるために必要なこととは何か……、『貞観政要』を読み解く。
理想的な政治が行われた貞観の時代
トヨタ自動車の張会長が愛読書に挙げたこともあってか、『貞観政要』が経営者の間で話題になっているようだ。『貞観政要』は、唐の太宗と家臣の言行を、太宗の没後50年ぐらいの頃に歴史家の呉兢がまとめて、時の皇帝・中宗のために奏上したものだといわれている。
貞観とは太宗の年号(627~649年)であり、中国の歴史の中でも最も理想的な政治が行われていたと評価される時代だった。
日本でも古くから教養人の必読書といわれ、『貞観政要』に描かれている故事は、『太平記』『源平盛衰記』等々にも数多く引用され、とりわけ北条政子、徳川家康が愛読した。
そんな『貞観政要』が今なぜ注目されているのか。『貞観政要』をベースに『帝王学』を著した山本七平さんは、その中で「本書(帝王学)を読んで関心をもたれ、さらに深く『貞観政要』を読んで、自らに資したいと思われる方は、原田種成博士の『貞観政要』(明治書院)を熟読されたい」と書いている。
原田博士の本は、本分・解説・校異・通釈・語釈・余説等々から構成された1000ページにもなる大書であるが、実にわかりやすくきめ細かく書き込まれている。そこで本稿では、原田博士の本を参考に、企業人に資するところ大と思われる記述をとり上げて、筆者の視点で解説してみたい。
何をもって明君・暗君と為すのか
「貞観2年、太宗、魏徴に問ひて曰く、何をか謂ひて明君・暗君と為す」(貞観2年、太宗が魏徴に問うていわれた。どのようなのを明君・暗君というのかと)
魏徴とは、天子の過失をいさめる「諫議大夫」という官職にあった人で、「人生意気に感ず、功名誰かまた論ぜん」で知られる『述懐』(唐詩選の冒頭に掲載されている五言古詩)の作者でもある。
この問いに魏徴は次のように答えている。
「君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり、その暗き所以の者は、偏信すればなり」
(君が明らかである理由は、多くの人の意見を聞くからであります。その暗い理由は、一方の人のいうことだけを信じるからであります)
魏徴はそう説明した後、秦(始皇帝)の二世皇帝や隋の煬帝が終わりを全うできなかったのは、偏信したからだと、具体例を挙げて続けている。この魏徴の言を善しとした太宗の政治は、まさに兼聴そのものであった。