My Opinion ―② リーダー育成のために―― 行動の振り返りを重視したミドルマネジメント教育
企業の中枢で実際に戦略を立てるミドルマネジメント。彼らのリーダーシップが企業の成功を左右する。
果たしてミドル層のリーダーを育てるものは何か。ハーバード・ビジネス・スクール、バウワー教授に、アメリカの背景、ミドルマネジメントの役割の変化、変化の時代でリーダーシップを発揮できるミドルマネジャーの育成について語っていただいた。
振り返りのできるリーダーに
「時には一歩さがり、世界はどのように変化しているのか、どのように施策を変更させるのかを自分に問いかける必要があります」とミドルマネジメントの育成における『振り返り』の重要性を強調するのは、ハーバード・ビジネス・スクールのバウワー教授だ。時間をかけて自分の経験を振り返る機会を提供する「ジェネラル・マネジメント・プログラム」の開発にも携わっている。
教授の定義するミドルマネジャーは「マネジャーをマネジメントするマネジャー」。経営トップの言葉を部下に、部下の言葉をトップに伝えながら、現場でリーダーシップを発揮しなければならないミドル層の役割は重要になっているという。
ミドルマネジャーを取り巻く環境変化
官僚的な職場から支援の職場へ
日本で起きたフラット化、組織の再構築によるミドルマネジャーの役割変化は、アメリカでは一歩先に起きている。
1980年代、米国大企業はトップからボトムまで15階層ほどの、多階層の組織で成り立っていた。この理由の1つは、「スパン・オブ・コントロール(管理可能な部下の数)」という考え方である。時間や労力を配慮し、1人のマネジャーが7~8人のグループを管理するのが一般的だったという。
しかし、1980~90年代にかけて、マネジメントの考え方は変わった。中間にいるマネジャーレベルを「スパン・ブレーカー(範囲を分割する人)」と呼ぶようになり、本来の管理可能な人数はもっと多いはずなのに、不必要に分断しているのではないかと疑問が投げかけられたのである。
官僚的な職場では、次第にこのスパン・ブレーカーの排除が組織の重要課題となり、1人で15人を管理するマネジャーが出現したのである。
「正確にいうと『人』ではなく、企業に貢献しない『形態』や『職務』を削除することが課題でした。これでミドルマネジャーの職務はまったく変わりました。15人のマネジメントと7人のマネジメントはまったく異なるからです」(バウワー教授、以下同)
これをバウワー教授は良い変化ととらえている。「部下の仕事にまで踏み込んで仕事をし、詳細に管理するマネジャーが、部下を支援するようになりました。方向性や目的を示し、支援を与え、測定し、動機づけするマネジャーへと変わり、官僚的な部分は少なくなったのです」
セルフ・マネジメント・チームの誕生
さらに起きたのがIT革命だった。部下の報告をまとめ、上司に提出するのが主な業務となるミドルマネジャーを不要にしただけではない。社員の存在意義も変えたのである。
一般社員が多くの情報に自らアクセスし、欲しい情報を手にできるようにしたのがその理由だ。米国企業は社員・労働者が『マインド(心)』をもつこと、『手』だけではなく『心』も使うということを学んだのである。そして日本企業から、労働者に仕事をしてもらうための支援方法など、多くのマネジメント手法を学ぶ中、米国企業には「自分たちで独自に活動するチーム(セルフ・マネジメント・チーム)」の概念が生まれたのである。
情報豊富な労働者が、セルフ・マネジメント・チームで協力しながら働くようになると、指示・管理型の従来のミドルマネジメントは必要なくなった。方向性を伝えると、自分たちですべきことを見つけてくれるからだ。職場のマネジメントは一変したのである。
「突然、官僚主義がなくなり、何もしない人は去り、会社に残ったミドルマネジャーは直接現場の労働者、上司と密接な関係がもてるようになりました。明確な会話ができることをミドルマネジャーは歓迎したのです。なぜなら、責任ある事業運営を期待され、真ん中で面白い役割を果たせるからです」
ミドルマネジャーの課題
しかし、組織や考え方の変化は、新たなる課題を生み出した。
2つの言葉を話せる存在に
上司や部下と密接になるにつれ、今まで以上にミドルマネジャーの存在意義は高まった。部下と具体的な課題を討議する一方で、トップとは財務や業績、成長率についての話をする、といったように、幅広いテーマをカバーしながら、トップ向けと自分の組織向けの2つの異なる言葉を話し、翻訳する必要性が生じたのである。
たとえば、文化の異なる2社が合併した場合、両社の理念や仕事の進め方は異なるもの。ストレスは高まり、仕事が中断しはじめ、社員は「なぜ」合併するのかとトップの意向を知りたがる。そこでミドルマネジャーには、トップの言葉を翻訳するという骨の折れる仕事が要求されるのだ。
「企業の成功のために社員も変わることが求められるのであれば、社員に面白く感じさせ、変化を成し遂げさせなければなりません。そのためには社員に『なぜ』を理解させる必要があります」
モチベーションダウン
米国企業がコスト削減に力を入れる中、誤解も生じはじめた。