My Opinion ―① 今、求められるウェイ・リーダーとは
リーダーは、その時代背景とともに位置や役割を変えてきた。
現在、リーダーに求められているのは価値創造型のリーダーシップであり、
それは企業が生き残るための独自な価値、つまり「企業ウェイ(その企業らしさ)」を表現できる人のことである。
ウェイ・リーダーのあり方について、リーダーシップ論に詳しい野口吉昭氏に聞いた。
リーダーは「ウェイ」を描き、人を引っ張る
最近、私が一番気になるキーワードが「ウェイ」。それは「企業ウェイ」ともいうべきもので、英語にすれば“Corporate Way”になるだろうか。古くは「IBMウェイ」「HPウェイ」「ノードストローム・ウェイ」「GEウェイ」などが知られている。日本で比較的古くからあるものとしては、「ホンダイズム」「トヨタウェイ」など。最近では「花王ウェイ」があり、松下電器産業自身はいっていないが、周囲から「松下ウェイ」と呼ばれている。「ウェイ」という言葉は、これからの企業のあり方を表している。日本語に直せば、「その企業らしさ」「その企業ならでは」といった意味になるだろう。「ウェイ」をもつのは、強い企業、魅力的な企業ばかりである。「ウェイ」のある企業は、外から見ても中から見てもわかりやすいということだろう。「戦略は組織に従う」とか「組織は戦略に従う」といわれるが、リーダーシップにあてはめてみると、「リーダーシップが企業経営を変える」というより、「企業経営の流れがリーダーシップを変える」といったほうが適切で、リーダーシップは企業経営のあり方から大きな影響を受けねばならない。
「企業ウェイ」すなわち、その企業らしさ、その企業独自のスタイルといったものは、私の言葉でいえば「企業遺伝子」である。「企業遺伝子」があり、わかりやすく、さらに改善・変革によってその企業が前に進み、上に上がっているのだと社員やステークホルダーが実感できる会社が求められている。未来を見据え、着実に今を生き、将来をつくっていける経営。それを引っ張るミッション・ステートメントとして「企業ウェイ」がある。
これからのリーダーは「企業ウェイ」をいつも見直す必要がある。現状をしっかり見つめ、自分で未来のウェイを描けて、それを変えられて、現状に落とし込めて、現場の人間を引っ張っていける。それが今、求められるリーダーシップの方向だ。
価値創造を担うリーダーシップ
図表1は古代から現代までのリーダーシップの系譜をひと目で見通せるようにざっくりとまとめたものである。近代~現代のカリスマ型、機能別型、SL理論に基づく状況対応型のリーダーシップの潮流の次に来るものとして、今は価値創造型リーダーという言葉で端的に特徴を表せると思う。
図表2は戦後日本のリーダーシップの代表的な動きをまとめたものだ。1990年代のバブル崩壊後の失われた10年なり15年を引っ張っていくには、ゴーン革命のようなコストカッター的なリーダーを中心とした、会社を変える強力な変革型リーダーシップが必要であった。
だが、現在の日産の業績は必ずしも上向いていないのではないか。変革型リーダーシップは、状況は変えられるとしても、どちらの方向に変え、価値をいかに生み出すかについては物足りない部分がある。
日産は変革型リーダーシップから価値創造型リーダーシップに変える時期に来ている。自動車業界における価値創造とは何かというと、1つは、新しいクルマ、売れるクルマが継続的、恒常的に出るという価値の創造。またはブランド価値が上がる展開ができるという価値もあり、社内的にいえば、働きやすい環境をしっかりつくるとか、社員が危機感をもって役割にコミットし、働く喜びを感じるような価値の創造である。日産は価値創造という面を今後、さらに明確に打ち出していく必要があるのではないか。ホンダやトヨタは、自分たちの方向感覚や価値創造という面では明確なものがあり、ゆるぎないという印象をうける。ホンダには「ホンダ・フィロソフィー」が明確にあり、これは「ホンダイズム」として、夢、人間尊重、自主自立というキーワードを掲げている。それを実現するために日々の仕事があるという基軸がぶれない。
トヨタも2001年に「トヨタウェイ」を明文化することによって、現地現物、創造性、人間性尊重等々をグローバルに仕組みとして展開している。そういう明確な価値創造目標というものがあり、それを担うのがリーダーとなっているのだ。時代背景の変化とリーダーシップの方向性が、合致してきている感じがする。
「人をあきらめない組織」をつくるリーダー
「会社を変えなければいけない」とか、「危機感をもたねばならぬ」とか、「新しい価値をつくるべきだ」と扇動するだけではなく、具体的にどんな価値をつくり出すのかということを、企業としてコンセプトを打ち出さなければならない。「ウェイ」づくりでは、抽象的な「べき論」で済ませるべきではない。たとえば「社会に貢献する企業」とか、「生活者を幸せにする商品を創る」とか、「感動を与える会社」といったフワフワした言葉ではなく、もっとズバリと具体的に表現すべきなのだ。
日本企業は自らの「ウェイ」をゆるぎない意思としてつくっていかないと今後、生き残っていけないだろう。息を吹き返したかに見える国内マーケットも、もってあと3、4年かもしれない。その後はシュリンクし、長い低迷期に入るともいわれている。その中で企業が自分たちのコンセプトをもたねば、袋小路に入ってしまう。
日本型経営はもう通用しないと、「新日本型経営」について盛んに論じられている。その1つとして、私は「人をあきらめない組織」という、コンセプトを提唱している。失われた10年の間に起きたことは、変革をする、スリムにする、利益率経営にする――といった日本型経営からアングロサクソン型経営への転換だった。株主優先であり、経営者は自社の利益を上げることに汲々とし、たとえ業績が上向いてもリストラの手綱は緩めないし、利益を生まない事業は売ったり、やめたりする。そのスタイルは、日本の企業には限界があるのではないか。それでは新しい価値は生まれないと思う。実際、日本企業ではM&Aが成功するのは10件のうち1件程度に過ぎない。
やはり人に軸足を置いた経営に、もう一度しっかり取り組まなければいけないと思う。その1つとして、「人をあきらめない組織」をいかにしてつくるかだ。そういった組織を引っ張っていくリーダーを「ウェイ・リーダー」と名づけた。