ヒューマンキャピタル2007レポート 社員の「働きがい」を喚起し、組織の資産価値を高める
2007年7月18~20日の3日間にわたり、東京国際フォーラム(東京・有楽町)において、企業の人材・組織戦略のためのイベント「ヒューマンキャピタル2007」が開催された。人事・人材開発部門のマネジメントにかかわる製品・サービスを中心とした展示会と、現場の第一線で活躍する人たちの声が聞けるセミナーを中心に展開。100社以上が出展、約2万9000人が来場した。本コーナーでは、今回のイベントを代表するセミナーの1つ「ヒューマンキャピタルForum」を紹介しよう。
「ヒューマンキャピタルForum」は、「成果主義と働きがいの統合:新しい組織求心力を考える」というテーマのもとに行われたパネルディスカッション。慶應義塾大学総合政策学部花田光世教授をコーディネータとし、東レ経営研究所取締役人材開発部門長渕野康一氏、日本エマソン代表取締役土屋純氏、住友商事人事部長新森健之氏が参加した。
花田教授は、まず、社員の「働きがい」に関しては、自己実現志向のある人材に応えていくというだけではなく、中間層、シニア、若者など、あらゆる人材の仕事に対する「働きがい」を組織的にサポートしていかなければ、組織自体が立ち行かなくなる可能性があることを示唆。その一連の動きの中で、エンゲージメント、GPTW(Great Place to Work:働きがいのある職場)などの概念が出てきているとし、社員の「働きがい」を喚起することは、組織の資産価値を高めることにもつながると語った。
「働きがい」を感じる若手は27%
経営トップ、上司と社員との信頼関係構築を
「会社組織では“働きがい”が企業活力の源泉になる」と語る東レ経営研究所・渕野氏は、「働きがい」の阻害要因として、①バブル崩壊後の合理化・コスト経営で企業に余裕がなくなったこと、②ITツールの急速な発展によるコミュニケーション不足、③個人業績と、それを結びつけた賃金(外発的動機づけ)を重視した成果主義が行き過ぎた格差を生み、チームワークを乱していること、④はじめて豊かな成熟社会を迎えた日本人が、自分の新しい生き方や働き方を見出していないことによる漠然とした不安の4つをあげた。
また、企業活力研究所の委託を受けて行った独自の「働きがい」調査(民間企業で働く20~30代の1000人の若手正社員へのインターネットアンケート、弊誌2007年6月号でも紹介)のデータをもとに、社員の「働きがい」の現状について報告(図表1・図表2)。若手社員のうち、「働きがい」を強く感じている人はわずか3 . 5 %、かなり感じていると答えた23.6%を加えても3割にも満たない。そればかりか、30%が3年以内に辞めたいと答えるなど、現代日本における若手社員のモチベーションや帰属意識の低下が懸念されている。
この調査を分析した結果、「働きがい」を大きく左右する要因として出てきたのが「責任のある仕事」「気軽に話せる上司」「働きに見合った給与」。とくに、「働きがい」を感じている社員は、責任(意義)のある仕事を任されることを強く意識し、「働きがい」を感じていない社員は、仕事に見合った給与がもらえないことに不満を感じているようだ。
このような結果を踏まえ、渕野氏は「キーワードになるのは“信頼”。これからの日本の会社は、働きやすい会社から、働きがいのある会社を目指すべき」と持論を展開した。
さらに渕野氏は、日本人の働き方が大きく揺らぎつつあることを指摘。「ワークライフバランス」が叫ばれる中で、日本人の働き方が会社と生活中心から人生とライフワーク中心へとシフトしつつある混乱期にあるというのだ。
このような現状を踏まえ、「人生も仕事も面白く」という“面白主義”を提案。「仕事は成果も重要だが、そこにいたるプロセスが面白い必要がある」と主張した。このような仕事を可能にするリーダーを育てることが、若手社員の「働きがい」を現場で醸成するための近道。「もっとエンパワー(権限委譲)する」「もっとほめ・叱り上手になる」「気軽に話せる上司になる」「飲みニケーションなど、心の対話交流の機会を意図的に増やす」など、リーダー自らがしっかり自覚することの必要性を説いた。