企業事例 グローリー 真面目さと誠実さに自由な発想力が加わった 「たくましい人間力」とは?
グローリーは競合や他社との提携事業が増す中、複眼的な人材を育成するため7年前に独自のビジネス・カレッジを開講し、ビジネスリーダーを育成してきた。
そして現在、次へのステップとしてグローバルリーダーの育成に乗り出したが、その両者ともに根底に必要な能力は「人間力」にほかならない。
同社が考える「人間力」とはいかなるものか。人事部長の気賀沢氏にお聞きした。
歩兵部隊からの脱却 「複眼的人材」の育成
グローリーの母体となった国栄機械製作所は1918年創業。国内初の硬貨計数機開発(1950年)や、やはり国内初のたばこ自動販売機開発など、「通貨処理」という独自のフィールドで事業を展開、この分野の第一人者として業界をリードしてきた。
昨年10月には1957年以降、同社の営業・販売・ユーザー対応を担ってきたグローリー商事(1957年設立)を吸収合併。企画・開発・製造・販売・保守まで、全プロセスのサービスをユーザーに密着した「一貫体制」で提供することとなった。社名も「グローリー」に変更され、第2の創業を果たしたといえる。
同社の社風について気賀沢清司氏(上席執行役員人事統括部人事部長)は、「歩兵部隊」だとたとえる。
「現在全国に約100カ所の拠点があり、金融・流通・レジャー市場など貨幣処理の必要な場所には、ほとんど当社の機械が入っています。決して華々しい企画力で顧客を開拓する企業ではなく、真面目で誠実、決まったことに対しては労力をいとわずに全力を注いで対応する――、本当に歩兵部隊がガーッと動くというようなイメージの集団です」
ただし、ここでいう「歩兵部隊」とは、決して命令通りにしか動けないといった意味ではない。たとえば2007年7月に起きたマグニチュード6.8の新潟中越沖地震の際には、「(上からの指示がなくとも)現場が先に動いた」と気賀沢氏。
「地震が起きたのは祝日の午前中。通常なら対策本部といったものが会社にできるのでしょうが、祝日だったこともあり、そういった動きが取りにくかったのです。それでも地震直後に管轄区域の所長が営業所に入り、周囲の地域から応援に人が駆けつけ、お客様の元へ飛んでいきました。転倒した機械を直したり、さまざまな対応をしたりと、お客様からは初動の速さについてお褒めの言葉をいただいたものです。熊本で地震があった時も同じでした。こういったことを現場が自主的に行えるのが当社の強みです」
しかし課題がないわけではない。この点について気賀沢氏は、「恵まれ過ぎたゆえの課題」だと説明する。
「私はグローリーに中途採用で20年前に入社しました。当時の事業の柱は、金融、流通、たばこの自動販売機、レジャー、パチンコの5大事業で、現在でも5つの市場がそのまま当社の柱になっています。
しかし、考えてみてください。この激動の時代、20年間も事業の柱を変えないで来られた会社はあまりありません。その意味で当社は、とてもハッピーな成長を遂げてきたといえます。先ほど当社は歩兵部隊のような会社だといいましたが、それはもともとクリエイティブな人材がいなかったからそうなったのではなく、真面目にお客様の要望を聞き、誠実に対応することで会社が成り立ってきた、その事業特性が人材特性をつくり出したからです。
しかし、今後はそれではいけないと考えています。競合や他社との提携事業が増えてきており、真面目な人材だけでよいのか、もっと自由な発想ができる、新しいことをどんどんやっていく力が必要なのではないかと、人材戦略に関する見直しを進めています。まさに「人間力」といういい方ができますが、“複眼的な人材”が求められる時期なのです。これまで培ってきたものからどう脱却し、新しいものをつくっていくか。当社も正念場を迎えているといえます」