企業事例 日本ペイント トップと現場のコミュニケーションが 「人間力」の基盤をつくる
アクションラーニングであるがゆえに、結果として研修のアセスメントが業績評価に反映されていた管理職研修を見直し、2007年度からは経営と現場のコミュニケーションをより密にする“場”をつくる研修へとシフトした。
「評価はランクづけのためではなく、育成をするためにある」
日本ペイントにおける管理職研修の改善点と、人事部門の意気込みを聞いた。
評価直結型の管理職研修導入から10年経って方向転換
日本ペイントでは1996年よりMTS(Mind Tool System:①目標共有、②全員参加、③自力実行を3原則とする目標達成の仕組み。社員1人ひとりが自分の重点目標を設定し、そこに到達するためのプロセスと最終的な成果を共有し、全体のレベルアップを図るもの)を導入し、管理職に対する研修(通称、M研修)を実施してきた。この研修は自己革新と変革による新たなマネジメントスタイルの構築を通じて、組織の課題を実際に解決していくアクションラーニングの手法を取っており、課題設定から成果発表まで約8カ月かけて実施される。
受講対象者は40歳代の幹部社員・定員20名。具体的には、導入研修を通じて革新者としての発想と行動の具体的方法を学んだのち、テーマ選定を行い、上司との合意および関係者への協力要請を経て実践に入る。中間コンサルを経て設定した課題の進捗状況を報告、個別にコンサルティングを受けたのち、さらなる実践を経て、最終的には成果発表を行う。
このM研修は、研修の最終評価を昇格アセスメントや業績評価に活用するところに大きな特徴があった。「M研修は実業務を扱う、アクションラーニングスタイルを取っています。実業務で50%強のウエートを占めるテーマを研修の題材としているので、結果的に研修が業績に連動するわけですから、そのアセスメントは業績評価に反映されることになっていたのです」と人材開発室室長の丸林稔氏は語る。
そして導入から10年。節目を迎えたM研修は、今年、大きく方向転換した。研修のアセスメントを評価に反映させることをやめ、さらに定員を20名から30名に増加したのである。
「理由は単純。受講者が『研修の評価がよければいいんだ』と、研修用のプレゼン資料づくりに走り出したのです。その状況が過熱して、実態と離れてきてしまいました。アクションラーニングといいながら、本末転倒になりかねない部分をはらんできたのです」
また研修の評価は外部講師と受講者の相互評価で行うが、その体制に対し「公平性がない」「外部に何がわかる」といった反発も強くなってきていたという。
「個人評価重視のため、個人研修に陥りやすいなど、さまざまな弊害が出てきていました。研修も導入から10年経ち、最初の役割を終えつつあったといえます」
この方向転換は、2005年に松浦誠氏が社長に就任し、人間力を重視した経営をすることを宣言したことも大きな理由の1つであった。
社長と現場をつなぎ信頼関係を醸成する
研修をアセスメントに使うことへの限界を感じていた人材開発部門は、松浦社長のメッセージによりM研修の舵を大きく切り直すことを決意した。