My Opinion ―① トップマネジメントの「人間力」と「事業力」が勝敗を分ける
事業力に優れたビジネスリーダーは、総じて人間的魅力を兼ね備えた人物である。
なぜなら、近年の経営者の資質は国際化の中にあって多様化しているため、複数の専門家からなるチームを編成し、その中の1人がトップマネジメントを務めるからである。
現在必要とされるリーダー像とは? そこで問われる「人間力」とは?
一橋大学大学院の橘川教授にご寄稿いただいた。
ビジネスリーダーの時代の到来
ビジネスリーダーの役割の大きさが明瞭に浮かび上がるのは、同じ時期に同じ国の同じ産業で複数の企業が事業活動を展開したにもかかわらず、結果的には、業績面で顕著な企業間格差が生じた場合である。最近の日本では、電機業界で、そのような状況が現出した。
「失われた10年」と呼ばれた1990年代に不況色を強めた日本の電機業界では、2000年代に入って、業績の劇的な回復を実現した事例が2つみられた。松下電器産業の再生と東芝の復活が、それである。
松下電器産業の再生の担い手となったのは、2000年に社長に就任した中村邦夫であった。松下電器産業は、2001年度に当期純損失4310億円の大幅赤字を計上して、深刻な経営危機に陥った。しかし、中村社長のリーダーシップのもと、グループ全体の事業ドメインの根本的編成替え、薄型テレビやDVDプレーヤーへの経営資源の集中的投入、「S字カーブ」(縦軸にシェア、横軸に時系列をとると、成功する商品のライフサイクルは、導入期には緩やかな上昇、成長期には急激な上昇、成熟期には穏やかな上昇を描くため、S字の曲線を描く)の連続立ち上げを可能にする垂直統合モデルの導入、系列流通機構の再編など、一連の改革に取り組んだ結果、2002年度以降、鮮やかなV字回復を達成した。
東芝では、岡村正(2000~2005年)と西田厚聰(2005年以降)の2人の社長が、業績回復を実現した。東芝も、2001年度に当期純損失2540億円の大幅赤字を計上したが、その後、「選択と集中」を徹底し、半導体事業・原子力事業などに経営資源を集中して、業績回復を実現した。とくに西田社長が就任してからは、フラッシュメモリー生産設備の大規模な増強や、アメリカの大手原子力機器メーカー・ウエスチングハウス社の買収など、積極的な投資姿勢が目立っている。
このように、長期にわたり不況下にあった日本の電機業界においても、中村邦夫、岡村正、西田厚聰らビジネスリーダーたちの活躍によって、将来へ向けた明るい兆候が強まりつつある。業態が似ている会社同士の間で、松下電器産業がソニーに比べて、東芝が日立製作所に比べて、それぞれいち早く業績回復を実現したのは、トップマネジメントの活躍が著しかったからである。
このように2000年代の日本の電機業界においては、複数の企業が事業活動を展開したにもかかわらず、結果的には、業績面で顕著な企業間格差が生じた。格差を生んだ最大の要因は、当該企業に優れたトップマネジメントが存在したか否かであった。同様の現象は、電機業界以外でも目にすることができる。この事実は、「ビジネスリーダーの時代」の到来を、強く示唆するものである。現在の日本においては、グローバル化や少子高齢化が急速に進行することによって、企業の経営環境が激変している。経営環境が変化する時代には、ビジネスリーダーの活躍が強く求められるのである。
2つの対照的な高収益モデル
業績面での企業間格差は、どうして生まれるのだろうか。この点に関して、最近、経営学の世界では、2つの説明モデルが注目されている。