連載 組織を元気にするメンタルヘルス 第2 回 メンタルヘルスとキャリア開発支援、組織開発の統合 QCとメンタルヘルスをリンクさせた職場環境改善
悩みごと相談のスティグマを解消するには
従業員約300人のIT企業の人事部長であるX氏が自身の30年間のキャリアを振り返ってみると、社内で心の病に罹患した人は2人しか思い浮かばなかった。しかし最近になって、なぜかうつ病にかかる社員が相次ぎ、何とか対策を立てなければと、産業医の精神科医に相談すると、外部EAP(従業員支援プログラム)企業の利用を勧められた。電話とメールの相談窓口サービスを契約し、悩みごとのある人は何でも気軽に相談するようにと全社に呼びかけた。ところが、1年経っても利用者数はわずか10人。その間、精神的な問題を理由に休職した人が3人いたが、いずれも一度も相談窓口を利用していなかった。
深刻な悩みを抱える人ほど、そして、責任感の強い真面目な人ほど、スティグマ(恥や外聞)を気にして相談に行けない。「これしきの問題を自分で解決できないなんて恥ずかしい」と思って耐えるうちに限界が来る。会社側がどれほど「秘密は守る」と公言しても、自分が相談に行った事実それ自体を上司や人事部門に知られることを恐れる。だからといって、外部相談窓口はまったく無意味かというと、決してそんなことはない。「相談すれば楽になる」といった評価が定着し、その存在価値が従業員全員に理解されるまでには時間がかかる。
X氏は、「メンタルヘルス対策は直接、人事が関与せずに裏方に回るべきだ」と判断し、社内の安全衛生委員会の活動に委ねることにした。委員会は、従来から発行している季刊誌の中でEAPの意味や、相談に行った場合にはプライバシー保護が徹底されることを繰り返し呼びかけた。その甲斐あって、相談件数が急増した。