連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第9 回 現場がつくり出す高品質な コンテンツの運用と活用
UGC のコンテンツづくりのためX 社の主要プラントを巡る
寝ぼけまなこで朝イチの「のぞみ」に飛び乗り、ホットコーヒーを飲みながら資料作成に集中。広島では駅構内に林立する「名物あなご丼」のノボリに後ろ髪を引かれつつ、PCとマニュアルでずっしり重いキャリーバックを蛇行させながら、あたふたと山陽本線の各駅停車に乗り換える。海側の座席に陣取り、のんびり西へ向かう車窓に頬杖をつけば、瀬戸内の穏やかな島影とキラキラ光る海が優しく「おいでませ~」とささやいているような……。おーっと、もう少しで乗り過ごすとこだったぁ。
とまぁ、こんな調子で、毎度スリリングな旅を楽しみながらX 社の主要プラントを回る地方巡業をしている。毎年恒例の行事で、2週間で5つのプラントを訪問。プラントといっても1つの街のように巨大だ。その1つ、Iプラントは本州西端の山口県にある。作家の宇野千代さんが若い頃、学校の先生をしていたという、風雅な錦帯橋のある城下町。こののどかな街に、インストラクショナルデザイナーの私を「寺田さーん、今度はいつ来れるんね?」と首を長くして待ってくれる技術者たちがいるとは、3年前には予想もしなかったことである。
X社がUGC(User Generated Content)つまり、技術者自身による教育プログラム開発プロジェクトを立ち上げたのが3年前。化学プラントのシステム・オペレータに必要な高度技術教育、法令遵守教育を効果的に行うにはどうすればよいか。業界の最新情報を効率的にアップデートして必要なタイミングに提供するにはどんな方法があるのか。次々と新技術が開発され、生産工程が変化する中で、製品の品質を保証するには何が必要か。経済性だけではなく、環境保護、社会貢献の視点から、研究開発、生産管理、品質管理、営業活動、そして業績管理をするにはどんな意識を啓発しなければならないか。2007 年問題を目前にして、I プラントの教育担当者からは、いくつものクリティカルな課題が提出された。さて、どこから手をつけたものか。プロジェクトのビジョンと、最初にクリアすべきサブ・ゴールをどのように設定したものか。当初は随分迷ったものである。