連載 調査データファイル 第77 回 雇用・人事システムの構造改革 中小企業の人材育成Part7
昨今、学生を含めた就職活動を行う人が企業を選ぶ際、一昔前に比べ、重視する基準が変わってきている。
その多くは、社員の働く意識(仕事観)によるものだが、現在の若者は会社に何を求め、どんな条件で仕事をしていきたいと考えているのか。
今回は、仕事観に関係する調査データと、ある中小企業のワークスタイルの取り組みを通して人材の育成や中小企業の進むべき道を探っていく。
1. 若年人材の二極化
景気が底を打った2002年を分水嶺として、それ以前の就職氷河期入社組と人手不足が顕在化した就職雪解け組とは、職業意識がかなり異なっている。
「大学生が企業を選ぶ際に重視する点」を比較した図表1によれば、就職氷河期入社組と比較して就職雪解け組の回答率が下がっている項目は、「やりたい仕事ができる」「成果や業績を正当に評価」「専門知識や技術が身につく」「経験・専門性を生かせる」であり、いずれも仕事に直結した要素で、これらが若干低下してきている。他方、「給与など待遇が良い」「雇用が安定している」「社会や地域に貢献」「勤務地・通勤が便利」といった働く環境を重視する傾向が、大幅に強まっている。
このように、20歳代後半から35歳前後に達している就職氷河期入社組と、現在の就職雪解け組を比較すると、前者は仕事のやりがいなどを重視する者が多かったのに対して、後者は雇用の安定など働く環境を重視する者が増えており、二極化する傾向にある。
こうした傾向は、人材マネジメントのやり方を複雑かつ難しくすることが予想される。企業に対する帰属意識が高く、ガンバリズムで仕事に挑戦する社員が大半を占めていた1980年代までの人材マネジメントは、ある意味で単純明快な手法が通用した。年功制と終身雇用制といった人事システムは、持続的な企業成長によって矛盾が顕在化することなく、社員に仕事のやりがいと、将来に対する希望や安心感を与えることに成功した。
だが、1990年以降の長期不況は、さまざまなリストラ策を強要された結果、社員から希望や安心感を奪うことになった。学生時代にこのようなリストラ策を垣間見た現役学生に、安定志向派が増えるというのは、ある意味自然の成り行きである。