人材教育最前線 プログラム編 革新技術を生む技能を伝承しつつ 社員の能力開発の道を拓く
自動車部品で今や世界でトップクラスのシェアを誇るデンソー。
その成長を支えてきたのは、創業間もない時期から独自の人材育成制度に力を注いできた結果にほかならない。
技術・技能を旨とする「デンソースピリット」継承の礎となるデンソー工業技術短期大学校群ほか、社内の数々の人材育成システムがどう機能しているのか。2007 年11 月7 日に行われた「第4 回開発経営会議2007」(主催:社団法人日本能率協会)においての小川王幸取締役副社長の発表をもとに、その実態をレポートする。
技術・技能を支えてきたデンソースピリット
トヨタ自動車から1949 年に分離独立、自動車用電装部品メーカーとして独自の企業努力を重ねてきたデンソー。今や国内を含め世界に200 近い拠点を持ち、従業員数は11万人超、売上高3兆6000 億円を超える世界屈指の自動車部品メーカーとなった。そのデンソーの技術を支えてきたのが、創業以来の精神「デンソースピリット」である。
そのスピリットとは、多様な個性を持った社員が一体となって、真のグローバル企業として成長・発展するために、グループ全体で共有すべき価値観や信念を掲げたものだ。
具体的には、創業間もない頃から暗黙知として継承されてきた「先進(先取、創造、挑戦)」「信頼(品質第一、現地現物、カイゼン)」「総智・総力(コミュニケーション、チームワーク、人材育成)」を明文化(2004 年)したもの。階層別教育や対話活動など機会あるごとに、そのスピリットの理解と浸透を図ってきた。社員自ら、自社の多くの先達が残してきたものからモノづくりの本質や、企業のあるべき姿を学び、企業側としても、社員の多様性を尊重しながら、人材育成とキャリア支援の環境づくりに尽力していこうという方針の表れだろう。
特に「総智・総力」では、①コミュニケーション――組織、職位を越え、納得がいくまで議論する、②チームワーク――高い目標を共有し、互いの存在価値を認め合う、③人材育成デンソー――仕事への挑戦を通じて人を育て、自らも学ぶ、としている点に着目したい。
モノづくりの前に人づくりという体制
デンソーはまた、創業から5 年めの1954年という早い時期から人材育成に力を注いできたことでも知られている。初代社長・林虎雄氏は「高度な技術・技能者こそ企業の礎」との考えから、「技能者養成所」を社内に創設した。今となっては、その先見の明が十分に花開いたといっていいだろう。
この「技能者養成所」には現在、工業高校課程(1954 年開始・90 名・3カ年)、高等専門学校課程(1966 年開始・60 名・1 カ年)、さらに、工業高校課程・高等専門学校課程の上に世界最高レベルの技を競う『ユニバーサル技能五輪国際大会』選手*1の育成を目的にした技能開発課程(1966 年開始・若干名・2 ~ 3 カ年)がある。卒業生は同社の製造部の中核をなすようになっており、同大会でも多数のメダル受賞者を輩出している。
また、それらの課程と独立して、実践的技術者の育成を目的にした短大課程(1987 年開始・40名・2カ年)があり、こちらは技術系部門の中核をなしている。
こうした「デンソー工業技術短期大学校」群の卒業生はすでに6000 人を超え、名実ともにデンソーを支える根幹となっている。
そうした人材育成による最も大きな成果は、卒業生が同社の各部署に配属され、開発や生産部門で技能を発揮し、それまで不可能と思われた技術や製品、革新的工法を開発したことである。高度な技を次世代に着実に伝承しながら、デンソーの技術の“厚み”は着実に増している。この点について、小川王幸取締役副社長はこう述べている。
「会社が独立して8年めの1957 年、カークーラーに着目して製品化にこぎつけました。それまで誰もそんなことに興味を示さなかったそうですが、そうやって開発したカークーラーをアメリカのビッグ3(GM、フォード、クライスラー)に納めていきました。さらに12 年目の1961 年、デンソーは自動車部品業界で初めて品質管理の最高権威であるデミング賞*2を受賞、1968 年には業界に先駆けてIC(集積回路)研究施設をつくっています。先輩方のこうした努力や先見の明がなければ、今日のデンソーはなかったでしょう」(小川氏、以下同)