企業事例 カシオ計算機 コミュニケーションをコーチングで活発化し 社員の創造力を高める
カシオ計算機は2004年から2005年にかけて、研究開発部門の管理職50名を対象に、3回に分けてコーチングプログラムを実施した。
その成果は有形無形の形で随所に現れているが、それはただやっただけではなく、担当者の熱意により社員に定着させることに成功したからこその結実である。
この成功からは、コーチングに限らず、すべての研修に共通する策がみえてくる。
コーチングの有用性を体感
熱意は上司をも動かした
G―SHOCKや電子辞書でおなじみの電機メーカーとして事業展開するカシオ計算機。戦後間もなく小型電子計算機の開発に成功し、その技術力と創造力を内外にアピールした。以来、今日に至るまで、「創造・貢献」を経営理念に掲げ、既成概念にとらわれない自由な発想のもと、多くの製品を世に送り出してきた。
技術力に定評のあるカシオ計算機だが、将来を見据えて、さらに新しいアイデアや技術を生み出せる風土をつくろうと役員より声が上がった。そして試行錯誤の末に始められたのが、コーチングプログラムの導入である。
2001年当時、カシオ計算機内の研究開発部門には教育を専任で担当する部署は存在せず、企画管理部が他の業務と並行して行っている状態であった。後に社内のコーチングプログラム推進の中心的存在となる村木千百合氏も、この部署で役員秘書を兼務しながら社内教育を行っていたという。
「役員から、新商品につながるアイデアや提案が続々と生まれる環境にして欲しいと言われ、どのような教育・研修が有効なのか、検討を開始しました。その結果、通信教育の受講を義務づける方法も検討しました。また、社員旅行やイベントなどが続々となくなっていく状況でしたので、社内コミュニケーションを活性化するために再度、そのような催しを行う必要があるのではないかと真剣に考えたこともありました。MOT(Management Of Technology:技術経営)の導入も視野に入れました。何度、企画書を持って役員室の扉を叩いたかわかりませんでしたね」と、村木氏は当時を振り返る。その後も情報収集を重ね、企画案を作成しては却下される日々が続いた。創造性や自主性を発揮するための研修であるにもかかわらず、それを強制しなければならないという矛盾も、村木氏の心にもやもやしたものを抱かせていたという。
「その試行錯誤を繰り返している時にコーチングのシンポジウムに出かける機会がありました。コーチングの存在は知っていましたし、ほかに手もなかったものですから、最初はとりあえず行ってみようという感じでしたね」(村木氏、以下同)
しかしその時は、皆が良いと言うが、何が良いのかが具体的にわからなかった。結果として、どんな効果を及ぼすのかが見えてこなかったのだ。その疑問をそのままにしてはおけないと感じた村木氏はシンポジウム終了後、主催者に質問をぶつけた。そして“話でわからないのであれば、実際にやってみましょう”ということになり、村木氏はコーチAの主催する体験コースに参加した。
「自分でやってみて、初めて手応えを感じましたね。それをうまく説明することはできないのですが、これならば会社を変えられるかもしれないと思ったことは事実です。後日、上司にも実際に体験してもらうことができ効果を共有し、導入までこぎつけました」
まさに、村木氏の目からウロコが落ちた瞬間だった。