企業事例 日本アイ・ビー・エム人財ソリューション 人と人の絆を深めるコーアクティブ・コーチングで 社員のモチベーションが向上
1993年のCEOによる企業改革の時からコーチングを取り入れていたIBM。
世界中に分散した支社や営業所に情報伝達を徹底するための課題がコミュニケーションであり、その解決法としてコーチングが採用されたのである。
コーチ(上司)が、コーチィ(部下)の話を引き出し、自ら答えに到達できるよう促す。
IBMで実践された営業職への世界規模のコーチング研修について聞いた。
ガースナー改革に始まる営業部門の改革と強化
IBMでは組織のコミュニケーション強化を狙い、営業部門にコーチングが導入されている。上司が部下から報告を受けて現状を確認し、次の具体的方針を決定するにあたって用いられているという。実施は上司の判断に任せられているが、週ごとの週次報告、月次報告など、節目の報告には基本的に活用されている。
同社ではコーチングは重要なマネジメントスキルの1つとして位置づけられており、最初の導入からすでに10年以上の歴史がある。1993年にCEOとして就任したルイス・V・ガースナー氏による改革は有名だが、コーチング導入の契機も元をたどれば、そこまで遡ると、日本アイ・ビー・エム人財ソリューションの片岡久氏(常務取締役プロフェッショナル研修担当)はいう。また、1990年代初頭、IBMが「大企業病に陥っていた」というのは多くの書物が語るところだが、当時の状況について次のように説明する。
「我々の業界でも、刻々と変化する状況に柔軟に対応し、戦略を変化させていかなければ勝ち残れなくなってきました。ところが当時のアメリカの本社では、たとえば現在の売上げがどれくらいで、どこで失敗し、どこで成功しているのかなど、ワールドワイドに展開されている事業の状況を正確に把握することができていませんでした」(片岡氏、以下同)
世界中に分散した支社や営業所のすみずみまで情報を行きわたらせ、いかに情報の流通をつくり出すか。この「情報改革」は、1990年代の大改革においても大きなテーマの1つであった。
「当時、課題として認識されたのがコミュニケーションでした。ビジネスプランは基本的に本社がつくります。そのプランを支社に伝達、実行し、フィードバックを受けて本社がプランを修正し、また実行する。このサイクルを回すためのやり取りが上意下達の連絡に終始し、現場の情報を吸い上げる機会として機能していなかったのです」
情報を流通させるコーチング
最初に手がつけられたのは、営業活動のシステム化であった。初動から成約、その後のフォローアップまで、営業に必要な全プロセスが段階ごとに洗い出された。プロセスの各々を「ステージ」と呼称し、各ステージで必要なノウハウを整理・体系化していった。営業という世界にメソドロジー(方法論)を導入し、標準化を進めたのである。この一連の体系をIBMではSSM(Signature Sales Methodology)と呼ぶ。SSMの目的は「共通言語」をつくることだったと片岡氏は述べる。
IBMでは上司と部下が同じ場所にいないことのほうが多い。たとえば、ある製造業の担当者は静岡、上司であるラインマネジャーは東京の事業所、ラインマネジャーの上司である営業部長は東京本社、営業部長の上司となるアジアパシフィックの営業担当マネジャーは香港――といった具合だ。
各々の情報源は当然ながら各々の部下。上にきちんと報告をするためには、部下から根掘り葉掘り状況を聞いて把握しなければならない。しかし報告する側の立場に立ってみれば、単に報告するだけではメリットがないと片岡氏はいう。実質的メリットがなければ人間は何かを続けることは難しい。そうなると、本来上層部が把握すべき事柄が報告されず、再び情報の動脈硬化が起こる可能性が出てくる。それでは、部下が上司に報告したくなる状況にするにはどうすればよいのか。片岡氏はここでコーチングが登場するのだという。
「報告することでアドバイスを得られたり、困っていることの解決策が得られれば、自然と部下は話をするようになる。意見のすり合わせもできます」