My Opinion-① コーチ型マネジャーが育成する 自立型社員が企業成長の鍵を握る
上意下達のコミュニケーションを脱し、自ら考え実行できる人材が育つことで企業は成長する。
そのカギとなるのがコーチングだ。次世代リーダーがコーチングを活用すれば、上司と部下のコミュニケーションが改善され、企業全体が活性化する。人を育てる魅力的なリーダーは、どのようにして生まれるのか。コーチング研修の背景と効果を森川里美氏と関係者に聞いた。
米国企業ではリーダーの必須コンピテンシー
コーチング研修を「現在行っている」企業は26.2%、「以前行ったことがある」企業は18.6%(図表1)。
2006年に行った日本コーチ協会の調査で、こんな事実が明らかになった。日本経営協会「人材白書2005」でも、社員に習得・強化を求める能力・技能・意識の第4位に、コーチング能力があげられている。
だが、コーチングを導入したすべての企業が、意図していた通りの成果を得ているとは限らない。その実情について日本コーチ協会の森川里美理事は次のように語る。
「コーチングとは、社員が自分の頭で考え、判断し、行動できるように促すコミュニケーション手法。それぞれの能力と可能性を最大限に発揮してもらえるようサポートすることで、自立型の社員を育成するものです。
米国では1970年代頃から普及し始め、1990年代にはIBM、HP(ヒューレット・パッカード)、GE(ゼネラル・エレクトリック)など、多くの大企業が導入しています。1992年には世界初のコーチ団体、国際コーチ連盟(ICF:International Coach Federation)も発足しました。
ごく一般的な能力としてコーチングを位置づけている米国企業ですが、ことにトップにとっては必須の能力。社長やCEOは就任前に、数年間のエグゼクティブ・コーチングを受けるケースが増えてきています」
翻って日本では、1997年にコーチ・トゥエンティワンが米国のコーチユニバーシティと提携し、コーチ育成の活動を開始したのが最初だ。2000年にはCTIジャパン*1が発足、コーチ育成をスタートした。
上意下達をくつがえす新しい人材育成
だが、コーチング文化は、まだまだ日本の企業風土に根づいているとは言いがたい。
「これまで日本の企業では、上意下達のコミュニケーションが一般的でした。確かに、環境の変化が緩やかな時代、または社会が一丸となって同じ方向を目指している時代は、上からの指示命令が効果的だったといえます。
また、民族や言語、宗教の異なる人々が集まる米国企業などと違い、均質な人材が集まる日本企業では、『聞かなくても察する』ことが対人関係上のスキルとされていました」(森川氏、以下同)
しかし、時代は変わった。変化の激しい現代は、社員1人ひとりが迅速にアクションを起こさなければ競争を勝ち抜けない。言われたことをこなすだけの指示待ち人間ではなく、自ら考え、判断し、行動する「自立型人材」が求められているのである。「上司が頭脳の役割を果たし、部下が手足になる」という従来型の組織はライバルに遅れをとるだろう。
「たとえば、営業マンが見込み客から契約条件の変更を要望されたとします。彼が、会社に要望を持ち帰って、上司に確認し、細かい指示をもらってから、見込み客に返事を伝えたとしたらどうでしょう。客はその間に、即座に決断してくれる企業と契約を済ませているに違いありません。