企業事例 ヤマト運輸 あらゆる業務の実体験から 仕事のつながりを理解させる ジョブローテーション制度
長期的視野に立った社員のキャリア形成を念頭に置くジョブローテーションはよくある話だが、これを大卒新入社員全員に課す企業がある。
第一線を重視するヤマト運輸だ。全国に散らばる配送センターの長として、若手の早期育成を目指す同社にとって、この制度は不可欠なものとなっている。
とかく受身になりがちな集合研修の対極にあるこのジョブローテーション制度について聞いた。
全員経営で現場重視の研修・登用制度
「宅急便」で知られているヤマト運輸では、大卒の定期採用で入社した社員を対象としたジョブローテーション制度*を導入している(図表1)。そうした社員を今後の幹部候補と見定め、現場のあらゆる業務を経験させるというものだ。その業務内容は、電話応対から人事に至るまで多岐にわたり、各業務に携わる期間はおおむね半年から1年程度。入社直後から2年間、みっちり現場を体験することになる。
新入社員教育については中・短期の集合研修を主とする企業が多い中、OJTベースで2年間という長期にわたるこの実務研修は、他にあまり例のない取り組みといえるだろう。これについて人材育成課係長の小坂隆弘氏は、次のように語る。
「弊社の理念の1つに“全員経営”という考え方があります。これは、全社員が同じ目的・目標に向かって、1人ひとりが自律的に行動するというものです。それと同時に“第一線重視”という理念もあります。しかし、社員がそれぞれキャリアアッププランを策定し、それに合わせた研修制度を充実させても、第一線を知らなくては中身が伴いません。だからまず、より多くの体験をさせるために、このジョブローテーション制度を設けたわけです」
まず第一線に出て、多くの業務を実体験するというこのジョブローテーション制度は、労働集約型サービスである宅配便市場において現在の地位をキープするヤマト運輸の人材育成の根幹をなすものなのである。
多くの業務を経験させ仕事への興味を喚起
ヤマト運輸の、若手社員に対するジョブローテーション制度は以前より行われていたが、平成17年度に大きく変更された。従来は入社後3年かけていたものを、現行の2年に短縮したのだ。
「これは社内の体制に大きな変更があったことが理由です。従来、弊社の最前線は営業所にありました。そこでは配送はもちろんのこと、お客様への対応や経理業務など総合的な業務が行われていたのですが、現在、その営業所は宅急便センターと名前を変えてお客様対応に特化し、その拠点を増やしていく流れになっています。その代わりに、それ以外の業務は主管支店と呼ばれる現場を統括する部門に集約されたのです」(小坂氏)
今までの営業所であれば、小さいながらも、それぞれ独立した業務が行われていたことから、総合的なOJTが可能だった。しかし、その業務内容が接客と配送に特化したことで業務の一部しか体験できなくなり、1カ所ですべての業務を体験できなくなったことが一番の理由だという。
さらに、人材育成課課長の樽見宏氏は、新人に対するジョブローテーション制度の意義についてこう語る。
「幹部候補となる大卒新人の多くは将来、会社の運営を担うことになります。そこで、このジョブローテーション制度で新人に最も学んで欲しいのは、第一線のセールスドライバーがどのような仕事をしているかということです。それが弊社の業務の中心であり、最前線ですからね。その姿や仕事内容を、若いうちにはっきり理解して欲しいと考えています。そして、どうすれば彼らドライバーのモチベーションを高め、組織として機能するかを考える場にして欲しいですね。それこそが現場力の向上につながるものなのですから」