My Opinion-② 社会で活躍するために 最低限必要なものは何かを明確にすることが先決
サラリーマンが日本の就業人口の85%を占める時代になり、地域コミュニティも人間関係の薄いものになってしまった。かつての子供は、周囲の大人の姿を見て社会人の何たるかを知り、また学校で大勢の人とかかわり合いながら基礎力を自然と身につけていたが、すでに社会にその育成する基盤がなくなったといってもいいだろう。
それでは今、社会で求められている基礎力とは何なのか。法政大学大学院・諏訪康雄教授に聞いた。
社会人基礎力は大学・企業の共通の尺度
「社会人基礎力」とは、字義通り「社会人として求められる基礎的能力」を指す。ここ数年、企業側から「新社会人はマナーを知らない」「新社会人は“ホウレンソウ”(報告・連絡・相談)ができない」など、社会人基礎力の欠如を指摘する声が増加の一途をたどってきた。その反面、大学生側からは、「企業の採用条件が明確でない」という声もあり、採用条件に一定の“モノサシ”がなかったことは否めない。
そこで経済産業省経済産業政策局は2005年7月、トヨタやソニーなど大企業の人事担当者、教育学者、大学教授、NPOの代表者などを集めて、「社会人基礎力に関する研究会」を立ち上げた。その座長を務めるのが法政大学大学院の諏訪康雄教授である。
発足当初は、企業側の意見として、「あれが足りない」「これも足りない」など、議論がずいぶん拡散したという。しかし、「新社会人なのだから初めから何でもできる人材はいない」という前提に立ち、「社会で活躍するうえで最低限必要なものは何か」を突き詰めていきながら12の構成要素を挙げ、それを主要3能力に凝縮した。
こうして2006年2月に発表されたのが、「社会人基礎力に関する研究会」の「中間取りまとめ」だ(図表1)。
ここでいう主要3能力とは、①前に踏み出す力、②考え抜く力、③チームで働く力である。こうして定義づける段階で、主要3能力について異議を唱える企業はなかったが、業種や仕事内容によって優先順位が違うことがわかってきた。その傾向は以下の通りである。
●メーカー系…… 前に踏み出す力・チームで働く力・考え抜く力
●シンクタンク系…… 考え抜く力・前に踏み出す力・チームで働く力
●小売・サービス系…… チームで働く力・前に踏み出す力・考え抜く力
また、この主要3能力を構成する要素として、主体性・働きかけ力・実行力・課題発見力・計画力・創造力・発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力の12の項目が挙げられている。