連載インストラクショナルデザイナーがゆく第11 回 ドイツのマイスターに リーダーシップ力を見る
海辺の街で出合ったドイツ気質の菓子店
往復3時間の通勤時間は、スピードが命のIT 業界に身を置く者には、ちょっとキツイ。それでも週末の朝、湘南の海岸を歩きながら、明るさを増した海の色、強くなった潮の香りに春の気配を感じると、東京の仕事場とは違うのんびりした時の流れに、すっかりキツさを忘れてしまう。そんなゆったりした週末の散歩の途中、よく立ち寄るところがある。
「アウスリーベ」。神奈川県藤沢市にあるドイツ語で「愛から」を意味する名前の、小さなドイツ菓子の店だ。
小柄な女性店主は、ケルンで「ドイツ国家マイスター」(徒弟制度による職人の最上位)の資格を取得した人。彼女の作る伝統的なドイツ菓子は、どれもシンプルで素朴な風情だ。華やかで可愛いスイーツが氾濫しているこのご時勢に、質実剛健といってもいいたたずまいのこの店のケーキは、少々地味で生真面目過ぎるかもしれない。
しかし、しっとりとしたマジパン(砂糖とアーモンドを挽いて練った生地)のケーキや、上品な薫りのシャンパン入りのトリュフチョコレートを一度口にすると、その味のしっかりとした豊かさと、技の確かさに圧倒される。「ドイツ風とは、こういう味か」と、いつもしみじみ感心するのである。
ドイツ国家マイスター取得は石の上にも4 年!?
ところで、ドイツ人でもなかなか難しい「マイスター」の技と資格を、日本人の、それも女性が、どうやって獲得したのだろうか。