連載 MBA 人材マネジメント講座 第3 回 アングロサクソン型人事システム・個別人事施策間のフィット Part1 雇用施策と選抜・異動施策のフィット
本連載ではこれまで、日本型人事システムにおける個別人事システム間のフィットについて紹介してきた。
今回からは視点を国際比較に移し、先進国である欧米諸国と日本の人事システムを比較しつつ、先進諸国間で人事システムが異なる理由について考えていく。
第1回と第2回で筆者は、日本型人事システムはトータルシステムとしてフィットしていることを述べた。では、他国の人事システムも同様にフィットしているのだろうか。フィットしているとしたら、どういったタイプのフィットなのだろうか。今回から2回にわたって、このテーマについて考えてみたい。
3タイプに大別される先進諸国の人事システム
図表1に示したのが、世界の先進諸国における男性社員の平均勤続年数である。日本が12.9年と最も長く、フランス11.0年、ドイツ10.6年、イギリス8.9年、カナダ8.8年、アメリカ7.9年という順で平均勤続年数が短くなっている。このように、世界の先進諸国の間でも勤続年数に違いがあり、ここから先進諸国間で人事システムが異なっていることが推測できる。人事システムには、雇用、採用、人材育成、評価、賃金などさまざまな個別分野があるが、人事システム全体を特色づける基盤となるのは雇用施策であるためだ。
さらに図表1をよく見ると、最も勤続年数の短いアメリカを筆頭とする、イギリス、カナダのアングロサクソン諸国、最も勤続年数の長い日本、中間のフランス、ドイツというヨーロッパ大陸諸国と、3つに大別できる。実際にこれまでの研究から、世界の先進諸国の人事システムは、外部人材調達型のアングロサクソン型システム、内部人材育成型の日本型システム、その中間のヨーロッパ大陸型システムの3つに大別されることが指摘されている。
今回からの新テーマでは、まず日本型人事システムと対極にあるアングロサクソン型人事システムについて紹介し、次いでヨーロッパ大陸型人事システムについても一端を紹介していきたい。なお、欧米諸国では個人ベースで賃金が決定するホワイトカラー社員と、時給支払いで団体交渉を通して賃金が決定する割合の高いブルーカラー社員の間では人事システムに大きな違いがある。こういった違いを考慮して、本テーマではホワイトカラーに焦点をあてて、人事システムを紹介していく。
アングロサクソン型人事システムの中核「市場型雇用システム」
アングロサクソン型人事システムの第1の特色は、必要な人材をそのつど、外部労働市場から調達することであり、「市場型雇用システム」として特色づけられている(図表2)。これに対し、日本のような必要人材を内部育成によって調達するシステムは「組織型雇用システム」と呼ばれる。ただし、ここで指摘したいのは、市場型雇用とはいえ長期雇用社員は必ず存在し、ただその割合が低いだけということだ。
市場型雇用システムが成り立つためには、「市場から調達できる人材の存在」「不必要になった人材を外部へ退出させることが比較的容易」という2つの条件が不可欠となる。