読者提言 論壇 流通現場のマネジャーのあり方と 人づくりのポイント
現在、パートやアルバイトが増加傾向にある流通業界では、教育が徹底しづらい傾向にあります。
この状況下で教育を徹底させるには、部下の育成を現場マネジャーの仕事の1つに組み込むことが有効。
しかし現状のままでは、現場マネジャーはオペレーションの徹底で精一杯ということも……。
本稿では、いかに現場マネジャーの意識を変えるかを論点に、実例を紹介していきます。
オペレーション人材から部下育成人材へ
流通業界では、パート、アルバイトといわれる流動型人材が増加しています。企業の論理では人件費の削減、働く側の事情では、定職につきたくないフリーターや、企業を退職した中高年が流通業界で働いているからです。この流動型人材には、働く企業、職業へのロイヤルティー(忠誠心)が薄いという特徴があるため、定着率が芳しくなく、業務レベルが安定しません。そこで、流通業としては徹底した教育をしたいのですが、店舗が全国に点在している理由から、まとまった集合教育がしづらい事情が存在しています。
流通業界では、売上げを上げる、粗利を稼ぐ、工数を削減するためのオペレーション教育を熱心に行ってきましたが、現在の環境を考えると“部下育成ができる”ことも現場人材教育の柱として意識していく必要があるようです。そのためには現場マネジャーに、「部下育成」も自分の役割であることを強く気づかせる必要があると思います。
1 現場マネジャーの意識を変える
部下育成のためには、OJT、リーダーシップ、コーチングなど技術的な要素もありますが、その前提として現場マネジャーが部下育成への深い意識を持つ必要があります。意識醸成の入り口は、部下の心に“受け入れる気持ちをつくる”ことであると考えます。現場マネジャーが何か良いことを高等な技術を用いて伝達しようとしても、受け入れる側の準備ができていなくては、徒労に終わってしまうからです。
部下の心に受け入れる気持ちをつくるためには、「解凍→凝固→再凍結」のプロセスを踏むことが重要です(図表1)。特に「解凍」のプロセスを意識すること。現場マネジャーはオペレーションを変えるための教育をたくさん受けてきているので、即物的に変化を求めます。「○○をやれ!」と言ってしまいがちということですが、それではだめです。それをやらなければならない理由、やった後のメリット、やらなかった場合のデメリットを事前に説明するなどの工夫が必要です。
「解凍」のプロセスが上手な事例を紹介します。ある現場マネジャーは朝礼やミーティングで、部下にメモ帳を持ってくることを求めています。このメモはやるべきことを忘れないためのものではなく、“やる意識をつくる”ことを目的にしています。通常、人は普段の生活の中で、目、耳から何万、何十万の情報を脳にインプットしています。しかし、すべての情報が脳に残ると、脳がパンクしてしまうため、記憶として残りません。言い換えれば、目や耳から入った情報は記憶として残りにくいのです。そこでこのマネジャーは、部下にメモを書かせることで、目や耳からだけでなく、手からも情報をインプットさせ、“やる意識”をつくっているのです。
また、ある百貨店には、現物を使って意識をつくることが上手なマネジャーがいます。現場にISO14000(環境マネジメントシステム)を導入することになった時のこと。本社からゴミの分別方法の指示書が各フロアに届きました。あるフロアマネジャーは指示書のコピーを渡し、ただ「やっておけ」と指示しました。しかし、意識をつくることが上手な別のマネジャーは、ゴミ箱とゴミの現物を用意し、朝礼で実際に分別を実演して、ゴミの分別方法を指示しました。この2人のマネジャーが担当するフロアのゴミの分別状況には、大変な違いが出たそうです。
このように、“メモを取らせる”“現物で示す”など、意識をつくる工夫をすることが、部下の受け入れる気持ちをつくるプロセスとして重要なのです。
2 現場マネジャーの行動を変える
流通業のマネジャーはオペレーションが得意で、バックヤードや売場を小走りで移動しているところをよく見かけます。図表2に示すケースは、部下の何気ない行動を見かけた時のマネジャーの受け止め方から、マネジメント課題を考察するためのものです。