講演録 コーチ型マネジメントの手法と効果 部下の立場に立った 的確な「リスニング」と「問いかけ」が 真のリーダーとなる礎に
米国企業では、すでに一般的となったコーチング。その費用対効果も明らかになりつつあるという。
部下を持つ社員は、どのようなスキルを身につければ効果的なマネジメントを行えるのか。
またそれは、組織の業績にどのような影響を与えるのか。
2008年2月22日に行われた「コーチング・マネジメントシンポジウム」(コーチ・トゥエンティワン主催)において行われた基調講演に、その現状を探った。
“コーチングは常識”の米国の最新事情
TLS アソシエイツは、企業に対してコーチング関連のサービスを提供する米国企業である。フォーチュン50社*のグローバル企業から中小企業に至るまで、さまざまな企業経営者のエグゼクティブコーチングを手がけるほか、組織における効果的なコミュニケーションの促進、社内コーチの育成、リーダーシップスキルなど、幅広い分野で活躍中である。
社長のトレーシー・L・スティーブンス氏は、国際コーチ連盟マスター認定コーチにして、国際コーチ連盟認定資格・認定プログラムコミッティー委員長でもある。
今回の基調講演「企業におけるコーチ型マネジャーの役割―米国の先進企業を例に―」で同氏は、コーチ型マネジメントの米国事情――管理職が部下に対してコーチングを行うメリットとその方法について、わかりやすく解説。ユーモアに満ちた氏の語り口は、たびたび笑いを呼んだ。また途中、簡単なエクササイズをはさんだり、参加者に質問を投げかけたりと、工夫を盛り込んだ内容に、会場は最後まで活気に溢れた。
*)フォーチュン50:米経済誌「FORTUNE」が発表する米国企業の売上高上位50社
的確に部下に質問する力「コーチ型マネジメント」
「リーダーにとって、コーチングはついでにやることではありません」とスティーブンス氏はいう。なぜなら、コーチングは、リーダーにとって必要不可欠なスキルだからだ。コーチ型マネジメントとは、部下の1人ひとりとかかわり、彼らの力を最大限に発揮させ、企業利益を発掘していくマネジメントにほかならない。
その特徴は「双方向」であること。「こうすべきだ」「いつまでにやりなさい」「こういうやり方で進めなさい」などと部下に一方的な指示を与えるだけのマネジメントは、昨今の企業環境には合致しないのである。
スティーブンス氏の父親が現役で働いていた頃は、部下は上司から受けた指示通り、忠実に仕事をするのが当たり前の時代だった。だが、氏や氏の弟が働き出した頃には、世の中の様子が変わり、自分の判断でビジネスを進めようとする人が増えてきた。さらに氏の子どもが社会人になった時には、多くのビジネスパーソンがあらゆる物事を自分で決断したいと願い、周りに対し、影響力を持ちたいとまで考えるようになっていたという。
「終身雇用の時代は終わり、労働市場の流動化が進んでいます。労働者たちが自分のキャリアのため、4、5年単位で職場を転々とする現在、リーダーに最も求められているのは、指示能力ではありません。『的確に部下に質問する力』なのです」(スティーブンス氏、以下同)
組織にどうすれば利益をもたらすことができるのかを部下に問いかけることこそが、コーチ型マネジメントの基本なのである。
優れたコーチ型マネジャーは何をするか
今まで一緒に働いたリーダーの中で、特に素晴らしかった人を思い出してみて欲しい。その人にはどんな特徴が見られただろう?
「自分に関心を持ち、大切にしてくれた」
「自分が能力を最大限発揮するために、何をすべきかを知っていた」「自分が達成したいことを手助けしてくれた」