企業事例 リコー 部門を越えた「場」での コミュニケーションから 技術基盤の創出と充実を図る
リコーは2005年、最高技術責任者からのトップダウンで、部門をまたぐコミュニケーションの「場」である専門技術部会を発足させた。
この中には10を超える部会があり、各部会は複数の分科会を持つ。
その最大の特徴は、開発者、技術者、販売担当者が部門の壁を越えて集い、ユーザー本位のものづくりについて情報を共有し、議論することにある。
その具体的な活動についてユーザインタフェース分科会の伊賀聡一郎氏に聞いた。
ユーザビリティを追求するユーザインタフェース分科会
リコーには“高性能な技術をより使いやすく”を目指した「アプライアンス」という思想がある。その思想をもとに“情報社会の恩恵を誰もが簡単に享受できる商品づくり”を具現化するための1つの実践例が、企業内につくられた「分科会」と呼ばれるコミュニティである(図表)。
もとより、リコーでは独自に活動していたインフォーマルなコミュニティはいくつかあったが、全社的な取り組みとして、トップダウンでこうした交流の場をつくり始めたのは2005年のことだった。
そのコミュニティの1つ「ユーザインタフェース(以下、UI)分科会」を担当している伊賀聡一郎氏は、UI(操作画面など、人と機械の接点)が専門の主幹研究員である。
「弊社で扱う商品には、基軸の複合機をはじめ、プリンタ、デジタルカメラなどのハードウェアのほか、業務用のソフトウェアがあります。商品の開発自体は、それぞれの事業部ごとに行いますが、デザインについては、一部ソフトウェアのWeb画面などを除き、最後にブランドイメージを含めて全体でまとめて行う形を採っています。ですから、研究は研究、開発は開発、デザインはデザインというように、お客様から見ればバラバラに見えるかもしれません」(伊賀氏、以下同)
もちろん、小さな商品単位であれば日常的に、それぞれの分野から人を集めてプロジェクトチームをつくって開発にあたっているが、大きな商品になるとスタッフの数も増え、必然的に部門ごとに分かれた開発になってしまう。そういう体制になった時、研究開発者は研究開発者の視点、技術者は技術者の視点、販売担当者は販売の視点が強くなり、ユーザー起点のものづくりの視点がどうしても希薄になりがちである。そうした欠点を補うコミュニティとしてつくられたのがUI分科会だ。「たとえば、これまで弊社でやってきた商品開発でも、『こういう技術があったら面白いよね』というように、技術者起点で出発しているところがあって、お客様起点ではないものもまだまだ見受けられます。もちろん研究開発者の視点、技術者の視点、販売担当者の視点のどれも大切な視点ですが、それらの視点が、ユーザーを起点にして意見交換する場があって初めて、相乗効果が得られるのではないかということで立ち上げたのがUI分科会です。研究所だけでUIの研究をやっていると、なかなか商品の機能や便利さをトータルにみることができませんし、販売の人間がどう感じているのかもわかりにくいものです。私自身、部門の垣根を越えて、お互いの知識を統合していく場がつくれないものかと考えて、個人的にインフォーマルのコミュニティを通じて販売の人間とも話をすることもありましたが、個人のコミュニティでは限界があり、共有する経験や知識などの前提が揃わないなど、なかなか話が前に進まないところがありました。そんな時、トップダウンのアプローチで『技術交流の場をつくっていこう』ということになったので、その流れに乗ってスケールアップを図れてきたと思います」
こうしてできた分科会には、ハードウェアの分科会もあれば、ソフトウェアやサービスの分科会もあって多種多様。間口を広くしておいて、研究開発から販売まで、いろんな分野の人間を巻き込みながら、組織を横断するような情報交換の場にするのが狙いだ。いわば、基礎研究、開発部門、販売部門の人間が、お互いの知見、悩み、商品開発に向けた夢や課題を、お互いに持ち寄る場としてのコミュニティというわけである。