企業事例 カゴメ 暗黙知の共有と コミュニケーション活性化に 寄与する「情報カード」
ITの発展により社内での情報の共有は容易になった。
しかしそれを有効に利用し、業務の効率化につなげることにはどの企業も腐心している。
カゴメでは20年以上前から取り組んできた情報共有をITによって加速し、営業担当社員の情報の宝庫として確立させた。それは単なるナレッジマネジメントの域を超え、社内コミュニケーションの活性化に寄与している点も見逃せない。
その柱となる「情報カード」の取り組みについて取材した。
食品・飲料等の食品メーカーであるカゴメの創業は1899年。この年は日本で初めてトマトの栽培に成功した年でもある。以来、今日に至るまでトマトを主材とする多くの食品開発を手がけ、幅広い事業活動を展開してきた。
その事業活動の幅が近年、加速度的に広がっている。背景には、ITを使った暗黙知の社内共有での成功がある。この情報共有の礎になっているのが、「情報カード」と呼ばれるナレッジマネジメントシステムだ。
売上げ増を目指した営業支援システムの構築
カゴメは1982年から、約700億円の売上げを5年で1000億円に乗せようという「スカイ計画」を実施した。これは業務の多角化を柱としたもので、見事に成功を収めた。さらにその余勢を駆って、1987年からは「ニュースカイ計画」を実施。売上げを1500億円まで伸ばそうと試みた。しかし、これはうまくいかなかった。カゴメが得意としない分野で競合他社との競争に敗れただけではなく、開発にコストをかけ過ぎたことで、販売低迷、利益半減という結果を生んでしまったのだ。
これを受けてカゴメは、利益を効率よく生む筋肉質な企業体質に生まれ変わるべく、売上げ重視から利益追求の方針に転換。取引制度の合理化、取扱商品のスリム化などを図った。1998年からは新たに「新・創業計画」を打ち出し、売上げも利益もともに上げることを目指した体制がとられ、現在に至っている。
この過程で経営陣の間で問題になったのは、売上高が1000億を超えてから伸び悩んでいることだった。その成長鈍化を打開するため、特に営業部門の革新に力が注がれ、BPR(BusinessProcess Re-engineering:効率や生産性を改善するためのプロセス再構築)によって、営業活動が一定スパンの中でどのように行われ、どのような成果を上げているのかが検証された。その結果、営業活動を阻害していると考えられる2つの要因がみえてきた。
1つは取引先を相手にした請求決済業務。そしてもう1つは、企画書の作成業務である。ともに社内で1人の営業社員が2日ないし3日の内勤を余儀なくされる業務である。約20日間の営業日数のうち、6日の内勤は大きなロスと考えられたのだ。この2つの分野で社員を支援することができないかと考えた結果、1 9 9 7 年に社内S F A(Sales Force Automation:営業支援システム)として「ATLAS」と呼ばれる仕組みが導入された(図表1)。
ATLASとは、Advanced Technology Leading Advanced Sales(先進技術による競争優位な営業)の略で、営業パーソンの営業活動の流れに沿って情報支援を行うもの。売上進捗や取引先(販売店等)を管理するデータベースも内包し、得意先ごとに販売計画を立てる仕組みを採り入れた。また、この販売計画を支援するものとして営業パーソンのPDCAをサイクルとしてみることができる仕組みを作り、その中に個々の社員が書き込み・閲覧が可能な情報カードのサブシステムを組み込んだ。この情報カードこそ、カゴメにおいて長年実施されてきた営業活動の柱となっているものである。
情報カードが営業日報の代わりに
そもそもカゴメの情報カードとは、20年以上も続けられてきた営業活動報告の様式である。1日の業務を終えた営業パーソンが、いつ、どこで、誰とどんな接触をし、どんな収穫や問題があったのかを記入するものだ。それを上司が閲覧し、重要なものは支店内で供覧され、特に有益と判断されたものは本社に送られて全社に配布されるという運用がなされていた。この方法について、営業推進部長の宮地雅典氏は次のように語る。
「弊社には営業日報なるものはありません。この情報カードがそれにあたるものだと考えていただいてよいでしょう。仕組みとしては良いものだと思っていますが、かつて紙ベースでやり取りしていた時には、いかんせん情報の広がりと鮮度に限界がありました。通常のものは社員と上司の間でしかやり取りされませんし、有益なものとして本社を通じて送られてきたものも、遅いものだと1週間は経過した情報だったのです」
こうした問題はATLASの構築により、解消されることとなった。1997年6月には全社員に1人1台のノートPCが貸与され、社内ネットワークの整備とともにATLASを構築。情報カードをサブシステムとして組み込んだことで、社員が書いた情報カードは、社内ネットワークを通じて瞬時に全国の営業パーソンが閲覧できるようになったのだ。この情報カードシステムは毎日利用するものだけに、社員のITリテラシーの向上にも役立ったという。
それでは、この情報カードについてもう少し詳しくみてみよう。
営業社員が書き込んだ情報カードには、直属のマネジャーがコメントを書き込むことが慣例化されている。内容は先に挙げた営業活動における報告や問題点の指摘などで特に限定されていない。営業活動で感じた事柄を自由に報告できるのである。