My Opinion 学習とイノベーションを統合した 自発的コミュニティが人を成長させる
社内におけるコミュニティはこれまで、主にナレッジマネジメント推進の手段として活用されてきた。
今、そのもう1つの側面が注目を集めつつある。コミュニケーションの活性化、そして社員の学習促進である。
社員が自ら設定したテーマのもとに集い、議論する自発的コミュニティでは、特に学習が促進されるという。
企業における有効な自発的コミュニティについて、東京大学の荒木淳子氏に寄稿いただいた。
自発的コミュニティの2つの側面
企業における自発的コミュニティは、これまで、主に2つの側面から注目されてきた。1つは、ナレッジマネジメントの側面、もう1つが、人材マネジメントの側面からの注目である。
ナレッジマネジメントとは、社員など組織構成員が持つ知識や情報を共有し、有効に活用することによって、業務効率の向上や知識創造を目指す経営手法である。このナレッジマネジメントにおいて、自発的コミュニティは、知識や情報が交換されたり、新しく創造されたりする場として注目されるようになった。企業が社内にグループウェアなどのITツールを導入し、自発的コミュニティをつくり出そうとしてきたのは、その活動を通じて、業務効率向上や知識創造など、企業にとって有益な成果が生み出されることを期待していたからである。このように、ナレッジマネジメントにおける自発的コミュニティは、その活動成果として知識創造やイノベーションが期待される「成果志向のコミュニティ」であるといえる。こうした自発的コミュニティの捉え方は、どちらかといえば、企業側の視点に立つものである。
一方、人材マネジメントにおいては、より社員側の視点に立って自発的コミュニティを捉える。社内SNSや社内ブログなどを介した人と人との緩やかなつながりが、社員の学習やモチベーションの向上、キャリア自律につながるという考え方である(本誌2007年12月号、慶應義塾大学・花田光世教授の記事参照)。人材マネジメントにおける自発的コミュニティは、活動成果よりもまず社員同士のつながりや学習を重視する「ES(従業員満足)志向のコミュニティ」といえよう。
このように、これまでの自発的コミュニティの捉え方には、「成果志向のコミュニティ」と「ES志向のコミュニティ」の2つがある(図表1)。そして最近では、より「ES志向のコミュニティ」への関心が高まってきているといえる。
しかし、「成果志向のコミュニティ」と「ES志向のコミュニティ」、いずれが勝っているとか、正しいということはない。むしろ自発的コミュニティには、成果を志向する側面もESを志向する側面もどちらも必要なのである。もともとこうしたコミュニティは、知識創造・イノベーションと、参加メンバーの学習との2つが、活動の中に分かちがたく含まれるものとして提示されている(Brown and Duguid論文1991)。どちらか一方だけに特化したものをつくろうとしても、結局はうまくいかない。
本稿では、自発的コミュニティと人材育成との関係について整理し、自発的コミュニティが、これまでの成果志向のコミュニティとES志向のコミュニティとを統合するものであることを述べたい。コミュニティでの活動成果も、参加メンバーの学習や満足度も、どちらも重視する自発的コミュニティこそが、人を成長させるコミュニティとなるのではないだろうか。