My Opinion ―① 上司と部下の双発型キャリア開発が “共育”風土をつくる
ここ数年、社員のキャリア自律が大きなテーマとしてクローズアップされるようになってきた。
会社側の期待と自己を取り巻く環境変化の中で、自分の存在意義や立ち位置を見失う社員が増えてきているからだという。それでは実際の現場では、具体的にどのような課題に直面しているのか。そして、その課題にどのように対処していけばいいのか。コンサルタントとして多くの企業のキャリア施策にかかわってきた、日本能率協会マネジメントセンターの山田学氏に寄稿いただいた。
現場で減少しつつあるタスクアイデンティティ
「私は、自社の新製品が市場に出ると、誰よりも真っ先に購入します」
これは、ある企業内の研修中に、担当したコンサルタントと研修参加者との会話である。一見、ごく普通の会話のようだが、この後の会話が非常に興味深い。「自社製品へのコミットメント、つまり愛着があるのか?」というコンサルタントの平凡な問いかけに対し、「そうではありません。新製品を買って分解するんです。分解して部品群になった時に、自分がかかわった仕事が形になって残ったことを、どの部分に使われているのかを確認して初めて実感するのです」という答えが返ってきた。
この研修参加者は、設計部門の技術者である。たくさんの設計プロジェクトの中で業務を遂行しているが、プロジェクト自体が途中でなくなることもあれば、完遂したにもかかわらず達成感が感じられない状況が多いというのが実態だ。
筆者は現場で、たくさんの研修参加者と本音で話をすることが多いが、技術系だけでなく、総じて社員全般の「タスクアイデンティティ(全体および仕事における自分の役割や存在意義)の減少」を感じ取っている。また最近、“父親が建設にかかわった高層ビルを見て、子供が父親自体の存在や大きさを改めて実感する”というCMがテレビで放映されているが、もしかすると、このような背景を反映して制作されたものなのかもしれない。
時代の変化に翻弄される中堅層社員の迷い
成果主義の概念が日本企業に浸透し、「個人プレイヤーとしての成果重視」へ大きく振り子が振られ始めた時代に入社した社員が、ちょうど管理職手前の中堅クラスとなって組織の中核人材になっている。その中堅層社員は、時代が時代だったためか、今までは、専門性や専門スキルを中心に個人の成果を最大化することだけを求められ、急速な成長を前提に現場で育てられてきたようだ。
ところが、昨今の企業が社員に求めている役割やメッセージをひもとくと、「専門性を有したチームプレーヤー」「現場で協業できる力」「人間力」などのキーワードが浮き彫りになってくる。環境の変化に“決して鈍感ではない世代であり、かつ従順な傾向もある”中堅層社員は、この会社のメッセージについて、自分なりに受け止めて咀嚼しようとする姿勢はある。