連載 HRD Professional Road 人材開発プロの道 Vol.8 仕組みで現場を変える(前編)―仕組みをつくる―
今号では、人材開発部が現場を変えるための間接的なアプローチとして「仕組みをつくる」ことを紹介する。仕組みをつくって効果的に運用するために欠かせない「考え方」「展開方法」「指標」とは何かを解説する。
間接的に現場を変える「仕組み」とは何か
前号まで人材開発部門が「現場を変える」ためのコンセプトを決めたうえで、現場に直接、あるいは間接的にかかわるという2つのアプローチモードについて事例を交えて解説してきた。今号と次号は、現場に間接的にかかわるアプローチとして、「仕組み」をつくることを考えていきたいと思う。
仕組みと一言で言っても、いったい仕組みとは何なのだろうか。わかりやすく表現すれば、仕組みをつくり、効果的に運用していくためには、「考え方(設計方針と運用方針)」「展開方法(手続きと基準)」「指標(目標項目と目標値)」の3要素が必要となってくるということだ(図表1)。
●仕組み① ―考え方―
まず、「考え方」であるが、これはコンセプトで決めたことを実現するために、どのような方針で仕組みをつくるのか(設計方針)、どのように運用していけば期待成果が達成できるか(運用方針)を明らかにすることである。重要なのは、人材開発のテーマを実現するために、
・仕組みに何を要求するのか
・仕組みによってどこまでの実現を果たすのか
を見定めることであろう。だが、こうした仕組みに対する“考え方”がしっかりしているかどうかを判断するのは極めて難しい。それは示された「考え方」の背景までしっかりと把握しなければ判断できないからだ。
【事例①】
ある電機部品開発・製造系企業E社では、社員の能力の開発のために自主的な職種転換ができる、いわゆるFA(フリーエージェント)制度を導入した*1。この運営に当たり、「自主性の重視」「能力開発機会の創出」という方針が表面上では示されている。しかし、この2つを示しただけでは、FA制度は実際にはうまく機能しない。
第一に自主性とは何かがあいまいである。自主的に手を挙げろといっても、本当に挙げてよいのかと悩む社員も多いだろう。挙げた手は戻せるのか、など疑問点はたくさんある。これらは、次の「展開方法」で解決されることかもしれないが、「考え方」に示しておいたほうがよい。そこで、同社では「自主性」について、「挙手して部署を移っても移らなくても悔いを残さないこと」「挙手することそのものを重視していること」と補足した。さらに「指標」である目標項目の中で全社の年間FA者数を重視することとした。
第二に「能力開発機会」であるが、社員には、そもそもここでいう能力の範囲はどこまでか、まだ学んでいないことでも、やってみたいテーマができる職種を希望してもいいのか、不安があった。そこで、「能力開発の機会の第一はE社保有のスキル基準書に示されている範囲とすること」「それ以外は自分でやってみたい知識・テーマを周囲の人にわかるように示すこと」という2つを補足した。