Topic ASTD 2009 カンファレンスレポート 従来の人材開発モデルを超えて 新しい枠組みを構築すべき時
職場における学習・訓練・開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織、ASTD(米国人材開発機構)が毎年開催している「ASTD International Conference & EXPOSITION」。
今年も5 月31 日~ 6 月3 日に米国ワシントンD.C.にて開催された。
このカンファレンスは、世界中から企業や教育機関・行政の人材開発や組織開発に携わる人たちが一堂に会して取り組みを発表し、学び合う場として多くの参加者を集めている。
今年は、経済危機の影響によるカオスの中での開催であり、企業の人材開発のあり方や枠組みにおいても転換期であることが色濃く現れた。その様子をレポートする。
今年の「ASTD2009カンファレンス」では、昨年のリーマンショックに始まる世界同時不況と新型インフルエンザの影響か、参加者が昨年の1 万名から8000 名と、2 割も減少。参加者の出身国も80 カ国から77 カ国となり、全体的に盛況感は欠けていたものの、世界で今後、人材開発・組織変革がどういった方向に舵を切られていくのかについて、数々のヒントを与えてくれるものだった。
昨年264 名だった日本からの参加者も、今年は99名と寂しい。新型インフルエンザに対して各企業が渡航を規制し、直前になって半分以上がキャンセルしたのではないかと推察される。
ちなみに、今回の参加者数を国別に挙げてみると、図表1のような状態であった。韓国からも日本同様、昨年は442名の参加があったが今年は151名と大幅に減少。カナダからも昨年178 名から今年124名、クウェートからも132名から104 名。オランダに至っては昨年101 名だったが、今年は人数の発表がなかった。かなり少なかったのだろう。その代わり、昨年は参加人数が発表されていなかったデンマークから、63名が参加していた。昨年多く見かけた中国・香港・台湾人は、今年はほとんど姿が見られなかった。
ASTD2009 全体の概要
ASTD2009 は会期中の4日間で、合計364 のセッションが開かれる大規模なイベントである。
メインとなる本カンファレンス前には、「プレカンファレンス」と称し、16の学習認定プログラムと12のワークショップが開催される。学習認定プログラムは、人材開発や組織変革などの重要なテーマについて学習し、ASTDから修了証がもらえるコースで、今年は日本からも数名が参加していた。
6月1日からの本カンファレンス中は、3つの基調講演と、延べ285 のセッションが開催される(同一テーマ・内容で2回開かれるセッションが68あるので、それらを除くと217 である)。また、今年から新しい試みの1つとして、12本の「マイクロセッション」が開催されていた。これは90 分ほどで、3~4つ程度のセッションの見どころを、1つにつき20 分から30 分で、それぞれのプレゼンターが紹介するというもの。身体が1つしかない参加者(!)や、短い時間で要点を把握したい人には、走り回ることなく手軽にセッションの大体の内容をつかめるので、大変効果的な試みかと思えた。しかし、実際に初日のマイクロセッションに行ってみると、残念ながらニーズがなかったのか、参加者は4名と閑散とした状態。最終的には10人程度が参加していた模様であるが、来年はお目にかかれないかもしれない。
さらに、今回からの新しい試みとして、「バーチャルカンファレンス」がオープン。これはWeb から30 程度のセッションと基調講演が見られるというものである。ASTD 会員は500 ドル程度、非会員は900 ドル程度で、世界中どこからでも、環境がそろっていれば参加できる。今回、ワシントンD.C.に来られなかった日本の何名かの方々は、バーチャルカンファレンスで参加していた。これはその場で質問などもできるそうで、参加者からの評判は良かった。一度この形で参加すると、セッションのアーカイブ(映像)を30日間見られるという。リアルタイムでなくてよければ、時差の関係で毎晩徹夜をしなくて済む。ワシントンD.C.で直接参加した人々にはもれなく、このバーチャルカンファレンスにアクセスできるIDが後日メールで送られた。
統一テーマはラーニングエンゲージメント
ASTD2009 は例年と同様に9つのカテゴリーでセッションを構成していた。カテゴリーごとのセッション数は図表2の通りである。この数は毎年応募者数によって変化するのだが、その数の変化からはここ数年の傾向を読み取ることは、実際には難しい。
ASTD では毎年、会議に参加する人に求められる学習姿勢を表すテーマを掲げている。今年のテーマは「LearningEngagement」。このテーマの意味するところを事前にASTD事務局に尋ねたところ、これは、ASTD2009 に参加することを通して、“学習に関連したさまざまな関係がいかに深まるか”ということを表しているとの答えをもらった。つまり、ASTD2009は“公的機関と私企業”が出会い、相互に作用する場であり、“理論と実践”が出会うことで、優れた理論からいかにベストプラクティスが生まれるかを学ぶ場でもあるのだ。さらに“アイデアとリアリティ”が出会って、学んだアイデアを仕事で活かすためのヒントを得る場でもあるということだ。よって、この「ラーニングエンゲージメント」を日本語に訳すとすると「学習を生み出す結びつき」「学習への主体的関係づけ」「学習の互恵関係」などになるだろう。
人材開発・組織変革の今後の傾向とは
ASTD2009 は大規模なイベントであるため、筆者1 人で全容を把握することは不可能である。そこで、弊社ヒューマンバリューが主催した現地での情報交換会に参加した方々の意見を参考にしながら、全体の傾向についての印象をまとめた。ASTD を通して今後の人材開発・組織変革のあり方を考えようとする方にとって、1つの仮説として探究の一助になれば幸いである。