連載 ベンチャー列伝 第7回 議論を重ねさせれば リーダーは自ずと決まる
衣料品のオンラインショッピング事業を行うマガシークでは、社長が後進を育てるために邁進している。自ら経営塾を開き、年齢層の異なる人材を混ぜて特定のテーマについて議論を行い、事業戦略を考えさせている。その議論から、個々の能力開発はもちろん、社員の強み・弱みも把握。組織の結束力も強めている。
妻のアイデアがビジネスモデルの源
マガシーク(本社:東京都千代田区)は、衣料品のオンラインショッピング事業を展開する企業である。同社は元々、代表取締役社長である井上直也氏が伊藤忠商事に在籍していた2000年に、社内ベンチャーとして始めた事業だった。当時はインターネットを活用したビジネスが世の中で脚光を浴びてきた頃で、伊藤忠商事でもインターネットを使ったビジネスを立ち上げようと、社内外を問わず事業企画の募集が行われた。社内ファンド対象第1号となったのが“マガシーク”であった。
井上氏の提案したビジネスモデルとは、ファッション雑誌の読者が、そこに掲載されている商品をWebサイトで検索し、その場で購入できるというサービス。このモデルを思いつくきっかけとなったのは、なんと井上氏の妻からのアイデアだったという。
「妻は、雑誌に載っている服を見て購入する商品を決めることが多かったんです。そして、自分と同様、『雑誌に出ている洋服を店頭に行かずに買えるサービスがあったら、購入する人はたくさんいる』と言うんです。この話を聞いた日の夜、何とかビジネスモデルにできないかと思い、すぐに企画書を作成しました。その時は何の根拠もなく、20億円くらいのビジネスになるのではと考えたものです(笑)」(井上氏、以下同)
翌日、課長に企画書を見せると、「お前が言うのなら、とにかくやってみろ」とゴーサインが出た。早速、大手アパレル会社にプレゼンを行ってみると、新しいビジネスモデルであること、そして繊維に強い伊藤忠商事がやるということで、各社から良い反応を得た。雑誌に関しては小学館と組むことができ、さらには同時並行で、当時話題となっていたNTTドコモのiモードの公式サイトに取り上げてもらうこともできた。こうして非常にスピーディーに立ち上げが進んだ。
「アイデアが浮かんだのが1999年の11月で、2000年2月から本格的に動き出しました。3月から私がマガシーク専任となり、8月にはサービスをスタートさせました」
その後、2003年には法人化、2006年には東証マザーズに上場、売上高も100億円近くに達するビジネスにまで成長した。2009年現在は、メンズの衣料を含め、約40万点もの商品を扱っているという。ファッション雑誌との提携は18誌に及び、会員も約100万人に達した。サイトを見ると、雑誌を入り口に、まるで百貨店と駅ビル、路面店などが1カ所にすべて集結したような“売り場”となっている。売り場スペースの限界を考えなくてよいという、ネットならではの強みを活かし、さまざまな品揃えを実現していることがわかる。
ビジネスの基本はどんな業種でも同じ
ネットビジネスでは、つねに新しいアイデアが求められている。しかし、重要なのはそのアイデアをいかに育てて大きくしていくかということ。そのためにも大きな指針である“企業理念”を掲げて社員のベクトルを揃え、具体的に実践していく必要がある。
そこで井上氏は、マガシークの企業理念として「誇り」「信頼」「マガシークスピリッツ」の3つを掲げた。「誇り」は、社員が自分の会社に誇りを持てるような、ES(従業員満足度)の高い会社をつくりたいという想いから。また「信頼」には、人として組織として、良いこと・正しいことを行うことで、広く社会に貢献していきたいという想いが込められている。そして「マガシークスピリッツ」として、“自主性、勤勉さ、謙虚さ、互助の精神、熱意を持つ全従業員により、新しい価値を生み出すこと”を謳っている。これらはそのまま、同社の人材理念と行動規範を表している。
「私自身、中間管理職を経験することなく、いきなり経営者となりました。そこで、いろいろな本を読んで勉強しましたが、ビジネスの基本は、どの仕事でも同じという思いが深まりました。ネットビジネスの会社だからといって、特別なことをするわけではないのです。ですから企業理念も、あくまでビジネスの基本と考えるものを掲げました」
丹羽宇一郎氏から学んだことを受け継ぐ
ベンチャー企業に限らず、会社経営で重要なのは、トップの考えをいかに社員に伝えていくかであろう。井上氏の所属していた伊藤忠商事では、丹羽宇一郎会長が、自分の考えを伝えるため「青山フォーラム」(エリート養成塾)を自ら主宰するなど、人材育成に非常に熱心であることは有名である。