企業事例 日立グループ 事後アンケートに基づく 受講者ニーズに沿って 研修を改善
1961年に日立製作所が設立した日本初の企業内大学を前身とする日立総合経営研修所。
日立グループ各社のマネジャー育成のため、多岐にわたって研修・教育を実施してきた。
しかし同社が行うのは、研修の企画立案や教育プログラムの構築・実施ばかりではない。
研修をより効果のあるものにするために、教育効果を測定し、その結果をもとにインストラクショナルデザインを用いて研修の質を高めていくのである。
ここでは、事後アンケートを使った教育効果測定を経て1つの研修が改善されていく様子を紹介する。
学習内容に乖離があったストレスマネジメント研修
2005年8月、日立総合経営研修所では、グループ会社のマネジャーを対象として「ストレスマネジメント研修」を実施することになった。数年前よりビジネスパーソンの“うつ”が一般に認知され、日立グループにとってもストレスマネジメントは喫緊の課題であった。ストレスマネジメント研修には、あるベンダーが開発したプログラムを導入することが決定。1日の集合研修で、2006年4月から3カ月に1回のペースで行うスケジュールとした。
その後、研修企画・運営を一任された柳美里氏は、次のように当時のことを振り返る。
「さまざまな事業所の部課長クラスに事前ヒアリングを行いましたが、予想通り『ストレスを感じている部下にどう対処していいのかわからない』という戸惑いが大勢を占めました。結局、ストレスマネジメントのスキルは、部下の精神的健康を保つことはもちろん、マネジャー自身のためにも必要な教育だという結論に達したのです」
研修のテーマはメンタルヘルス。具体的な学習目標、目指すべきゴールは、「部下がストレス状態に陥ったことを早期発見できるようになること」、そして「部下が自分で問題を解決できるように支援するスキルを身につけること」の2つであった。マネジャーがストレス状態の部下への対処法を知ることこそ、職場のメンタルヘルスに最も効果的だと考えたからだ。
初回の研修当日、柳氏は会場の末席に座り、オブザーバーとして参加した。しかし研修が進むにつれ、次第に違和感を覚えるようになる。受講者であるマネジャーたちの期待と、提供している学習内容にズレがあるように感じたのである。研修終了後に実施した受講者へのアンケートやヒアリングの結果に、それが鮮明に表れていた。
「部下の調子が悪くなるのは管理監督者の責任という精神的なプレッシャーに上司も参ってしまい、メンタルヘルス不調になる可能性さえあるのです。しかし初回の研修では、部下とのコミュニケーションのとり方が講義の中心で、ストレスやうつに対する正確な知識をわかりやすく伝えたり、マネジャーの精神的負担の軽減を図る方法などの課題に対する解決策が想定されていなかったのです」(柳氏、以下同)
現場で問題に直面しているマネジャーたちは、予想以上に事態を深刻に受け止めていることがわかったのである。そんな彼らに、部下を支援するコミュニケーションスキルを授けても、“今さら”感は否めない。さらに、ベンダーから派遣された講師は対人コミュニケーションの専門家であったが、「高度なスキルを教えられても一朝一夕には実践できない」という悲観的な声や、メンタルヘルスが専門外だったこともあって、「受講者の突っ込んだ疑問に答えられなかった」など、厳しい意見も多くあった。