企業事例 NTTドコモ 携帯電話で研修効果測定! リアルタイムの集計・改善と 受講者の振り返りを促す
研修の事前と事後のフォローがまったくできていないことに気づいたNTTドコモ。
その実現に向けて、同社ならではの携帯電話を使った効果測定を開始した。
研修後のアンケートはもちろん、受講者の学習度を測るテストも携帯電話を使って実施。
受講者の回答率はもとより、データ集計の効率が格段に向上し、集計結果に基づく研修内容の改善も、時を移さず実施できるようになった。
何より、受講者が研修内容を振り返る機会にもなり、研修効果を高める結果にもつながっている。
「研修は必要だが、その効果のほどが今一つ見えてこない」――まさしく、多くの企業の人事担当者が抱えているジレンマではないだろうか。こうした悩みにピリオドを打つべく、具体的に動き出したのがNTTドコモだ。
同社は研修前と研修後にきめ細かなフォロー体制を敷き、教育効果の最大化を目指した。徹底した受講者目線に立った「研修マーケティング」を実践することで“やりっぱなし研修”を“生きた研修”へと脱皮させた。ユニークなのは、携帯電話を使った独自の手法を取り入れている点だ。
研修マーケティングでニーズから結果まで分析
NTTドコモの人材育成の基本となるのは、ビジネスパーソンとして共通に求められる「ビジネススキル」と、分野ごとに必要な「専門スキル」の双方を高めること。これらのスキルを、ジョブローテーションと能力開発(研修やOJT)に連動させることで、より効果的な人材育成を目指している。
ビジネススキル系の研修では、各階層のスキルごとに、階層別、選択型、自己啓発、およびスキルの棚卸をするアセスメントを連関させて実施。一方、専門スキル系の研修では、サービス開発、営業、ネットワークなどの部門ごとに求められるスキル内容に応じたエキスパート研修に加え、自己啓発を促す通信教育や資格取得支援なども行っている。同社では、こうした学びの場を充実させることによって、人材育成に力を入れてきた。
「社員に研修受講を促すために、イントラネット上の研修案内ホームページをリニューアルすることになりました。それに当たって、受講者目線で研修受講フローにおける問題の棚卸をしていたところ、ふと気づいたんです。研修前と後のフォローがまったく手薄だった、ということに……」
そう語るのは、人事部第二人材開発担当の白石祐二氏。それが教育効果測定に力を入れ始めたきっかけだった。
NTTドコモは2008年7月、それまで地域ごとに分かれていた会社を統合し、全国1社体制となった。それを機に人材育成体系の見直しを断行。研修案内ホームページの刷新もその一環で、自主参加を原則としている研修の受講率を上げ、研修効果を高めるために行ったものだ。そこでふと湧いてきたのが、本当に受講者ニーズに合った研修を提供できているかという疑問。そのための情報収集さえ、まったくできていない現状に気づいたのである。
人事部第二人材開発担当課長の近藤泰氏は、当時を次のように振り返る。「研修の効果を上げるためには、受講者の声をいち早く反映し、改善を進めなければなりません。それには、受講状況ばかりでなく、受講者の成長度合いなどの実態把握が必要です。
そこで我々は、教育サービスを提供する者として、社員を顧客に見立てたマーケティング(研修マーケティング)を行うことにしました。現場の研修ニーズから研修効果に至るまでデータを徹底的に収集し、その分析結果を研修に反映させ、効果を最大化するのが目的です」
その効果測定の基準となったのが、カークパトリックの教育効果測定モデル(4段階評価)だ。主に研修における教育効果を4つのレベルに分け、それぞれの目標達成度合いを効果測定から見極めようというもので、受講者の反応を見るレベル1「Reaction(反応)」、理解度を見るレベル2「Learning(学習到達度)」、職場での実践度合いを見るレベル3「Behavior(行動変容)」、組織に対する影響度を見るレベル4「Results(組織貢献度)」に分かれる(詳細はp.46参照)。同社が行った研修マーケティングはこれを軸に、「研修の企画(Plan)→実施(Do)→検証(Check)→改善(Action)」というPDCAサイクルに沿って実行される。
実は同社ではこれまで、年度ごとに研修設計を見直し、反映させるのが慣例だった。しかし、変化の激しい今日においては、それでは遅すぎると判断。教育といえども、サービスの品質を高め維持していくにはタイムリーに改善していかなければならないと考えたのだ。そのためにも、データの収集、分析を随時行う仕組みが不可欠だった。