My Opinion ② インストラクショナルデザインの視点から 適正な評価を行うためには 評価の文化の醸成が不可欠
教育効果といった時、研修の出席率、修了率、アンケート結果、テストの成績と数値データばかりに目を奪われていないだろうか。
しかし、評価の目的は数値を出すことではない。
悪いところを明らかにし、良くなるためのヒントをくれるものなのだ。
そのためには、数値をどう解釈するかが大事になってくる。
そして適正な数値を得るためには、目標の明確化と、“評価の文化”の醸成が欠かせない。
目標が明確でなければ満足のいく評価はできない
インストラクショナルデザイン(以下、ID)の仕事は、教育・学習ニーズを分析し、それに基づいて研修などの教育手段やプロセスを設計すること。最終的な目的は、教育効果の最大化にある。そのためIDではつねに、教育の効果、評価を意識している。
昨今のような厳しい経済状況においては、教育の費用対効果の算出を求める声が高まっているが、後からそれだけを測るのは難しい。なぜなら多くの場合、評価の基準が明確になっていないからである。
教育を行ううえで何よりも重要なのは、最初に目標を決めることだ。理想的な職場や人材をイメージしてもらい、できるだけ具体的に設定していく。この目標さえしっかり設定できれば、これを基準として、どこまで目標に近づけたかを測ることができるわけだ。自ずと各ステップにおけるメジャーズ(Measures:効果を測定する指標)もでき、教えなければならない中身も決まってくる。
たとえば研修であれば、効果を測定する指標として、修了率や受講者の満足度、研修内容の理解度などがある。それを測るためにアンケートやテストを作成するのは大変な労力だ。
ただし、数値を出すことが評価の目的ではない。実際のIDの仕事は、各プロセスで出てきたデータを参考に研修全体の“評価のレポート”を書いて初めて終了する。これは、どうしたら次により良い研修ができるかを示す提言である。アンケートやテストを行うことは、レポートを書くための前提条件でしかないといっていい。
実はIDで最も難しいのは、出てきた数値をどう分析するかである。たとえば、100名が研修を受けて100名全員が100点を取って修了したとする。これは、教育現場レベルでは100%の出来である。しかし、企業として受講して欲しい人が200名いたとしたらどうだろう。この場合、IDの視点から見れば、50%の出来でしかなく、いかに全員を参加させるかが次の課題となる。数値を出すだけではなく、それを解釈してこそ評価の意味があるのだ。この際の評価基準になるのが、最初に決めた目標なのである。
もちろん、企業で教育を行う以上、その効果が求められるのは当然である。教育効果を証明するために効果測定は必要だが、それはまた、より良い研修をつくるための手段であることも忘れないで欲しい。
評価の文化なくして真の評価は成立せず
最近の人材教育の分野では、「評価」「効果測定」「アセスメント」など、いろいろな言葉が飛び交っている。だが、前述したように、教育効果の定義が共通認識のもとにあるかといえば、決してそうではないのが実情だ。
そのせいだろう。アンケートやテストを行っても、やりっぱなしの企業がほとんどだ。評価がうまくいかない理由として、企業内で「評価の文化」が育っていないことが挙げられる。私がIDの仕事をしていて一番危惧しているところでもある。
評価の文化とは、一言でいうと評価を肯定的にとらえる姿勢だ。評価とは本来、等身大の自分たちの姿を鏡に映して、「こんな姿をしているが、ここを工夫すればもっと良くなる」というように、次に何を努力すればいいのかを教えてくれるもの。悪い点が明らかになったら、喜ぶべきものなのだ。
しかし、評価の文化が育っていない企業では、何のために評価をするのかを、評価をするほうも、されるほうも理解していない。そのため、アンケートを実施しても一番選択しやすい「まあまあ」とか「どちらでもない」という回答ばかりが多くなったりする。加えて評価を実施する側も、悪い数値が出ると、よく見せようしたり、「時期が悪かったから」などと言い訳したりするケースも少なくない。