連載 HR Global Eyes 世界の人事 ニッポンの人事 Vol.3 フランスにおけるプロの指標 「職位係数」と「職務責任」
フランス人が大切にする給与明細の中身
フランスの「給与明細書」がどんなふうになっているか、ちょっと覗いてみよう(ただし給与額など生臭い実数字にはあえて触れない)。
フランス人が給与明細書を見る時、金額以外で誰もがチェックする項目は、有給休暇の欄である。就労日数に応じて獲得した有給休暇の累積日数が、既消化分・未消化分に区分されて毎月表示される。繰り越し未消化分は、退職時に文字通り「有給」として払い戻してもらえる大切な権利である。会社側も資金繰りを圧迫させないためには、有給休暇を順当に消化してもらったほうがありがたいので、無用な「有給残し」を嫌う。法定の有給は年5 週間分。さすがバカンスの国である。
この有給休暇と同じくらいフランス人労働者が重要視しているのが、自己の職能レベルに関する項目である。給与明細書の冒頭には定型の書式で本人固有の情報が記されているが、フランスで働く者にとって「所属業界協約」「職位係数」「職掌分類」「職務責任レベル」の4 項目は、かなり重要な雇用ステータス表示である。日本にはないので、どれも聞き慣れない用語だろう。
ある日系工場の生産現場(約600人)で現場改善を推進した時、否応なしにこのフランス固有の人事雇用制度に直面した。その事例に則して、前述の雇用ステータス表示の説明をしてみよう。
発端は「日本の生産現場と比べてフランス工場はどこか弱いのか?」という、日本人社長との議論であった。答えは期せずして一致した。
「職長の力が弱く改善を牽引できない」
「職長」は、英語のフォアマンあるいはスーパーバイザー(仏語のメトリーズ、独語のマイスターと同じ語源)に相当する。彼らはリーダーでありながら、PDCA(Plan・Do・Check・Act)のマネジメントサイクルを回したことがない。日本で言う第一線監督者教育が、フランスでは致命的に足りないのだ。